「鉄旅ツアー」が人気化しているホントの理由 ファミリーや女性など新しいファン層を開拓

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若い女性というと、これまでの「時刻表を読み込んで計画を練る鉄道旅行」とは最も遠いイメージ。しかし、わかりやすい魅力を持つ観光列車とそれを組み込んだツアー商品の登場で、こうした層にも鉄道旅行が受け入れられつつあるというわけだ。

ある30代の女性は「旅行は好きでも事前に計画を立てたりすることが億劫。時刻表を見て列車を探してきっぷを買うとなるとかなりハードルが高い。でも、観光列車もすべて組み込まれているプランがあるなら使わない理由はない」と語る。

また、従来の鉄道ファン以外の利用者の取り込みは鉄道事業者やローカル線を抱える地方自治体にとっても重要だ。近畿地方のあるローカル線の幹部は「観光列車やそれを利用した旅行プランは生命線。地元の人や鉄道ファンの利用だけではとてもではないが経営は成り立たない。目玉になる観光列車を走らせて、旅行会社ともタイアップして観光客を呼んでこなければ未来はない」と話す。

こうしたツアーでは鉄道に加えて地元の名産品の購入や観光名所への訪問も組み合わされていることが一般的。地域経済への影響も少なくない。

「鉄道だけでなく地域全体で活性化を考えなければもはや立ち行きません。安い乗車券を使って列車に乗るだけで帰ってしまうと、地域にはほとんどおカネが落ちない。だから、そういう人たちだけでなく、若い女性や年配のご夫婦、さらに海外からの観光客など“おカネを落とす”人たちにもっと来ていただきたいというのが本音です」(前出のローカル線幹部)

裾野広がる「鉄旅」の可能性

今まで、鉄道の旅といえば男性の鉄道ファンの専売特許というイメージが強かった。しかし、“旅好き”という点では男女も鉄道ファンもそれ以外も違いはない。鉄旅につきまとっていた“時刻表を読んで計画を立てる”“マニアック”“観光せずに乗りっぱなし”などのネガティブなイメージを払拭している昨今の観光列車や旅行商品は、間違いなく“鉄旅”の裾野を広げている。

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「鉄旅オブザイヤー」の授賞式。応募数は年々増えている

東京・大阪などの大都市圏や東海道の大動脈を持つJR本州3社や大手私鉄はともかく、その他の鉄道事業者は全国的に厳しい経営を強いられている。

そんな中で、数多くの観光列車を投入して“鉄旅”のメッカになったJR九州のような成功例もある。すでに述べたとおり、ローカル線にとっては未来へと鉄路をつなぐ希望でもある。インバウンドが注目されるが、鉄旅の人気拡大は国内旅行の促進につながるだろう。鉄道の旅には多くの可能性があるのだ。

こうした中で開催5回目を数えた「鉄旅オブザイヤー」。年々応募数も増えているという。ただ、実際に授賞式を取材した印象では、まだまだ“鉄道趣味界の内輪イベント”といった趣も否めない。次回以降、できることならもっと多くの人々や業界を巻き込んで、より注目度を高める工夫をしてもらいたいものだ。“鉄旅”の魅力を知らない旅行好きが、まだまだたくさんいるはずだからだ。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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