坂上忍の魅力は「芸能界No.1の営業力」にある 「毒舌キャラ」はカモフラージュか?

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芸人がこれをすると、“お約束”のような印象を与えてしまいますが、俳優の坂上さんにはそれがありません。制作サイドにとって坂上さんは、番組で扱う情報や商品への興味関心を高めてくれる貴重な存在なのです。

“偽悪”で自分の存在を下げる

坂上さんを語る上で欠かせないのが、“偽悪”を意識的に使っていること。自ら『偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方』(講談社+α新書)という本を書いたように、要所で“偽悪”を仕事に生かしている様子がうかがえます。

このところ、「空気を読む」「言いたいことを我慢する」など、“いい人”を演じなければ生きにくい時代になりました。坂上さんはそれを逆手にとって「空気を読まない」「言いたいことを言う」悪そうな姿を見せることで自分の存在を下げて、企画を面白く見せようとしているのです。

たとえば、ある家電を紹介するとき、坂上さんが「何でこんなの作ったの?」「こんなもん絶対にいらない!」と酷評したことがありました。ただ坂上さんの真意は酷評ではなく、“嫌な男”の役を引き受けること。その後、すばらしさがわかったとき、“嫌な男”の坂上さんがピエロになることで、視聴者は商品やそれを紹介した企画のすばらしさを感じるのです。

これを営業マンに置き換えると、「自分の存在を下げて、商品を魅力的に見せる」というテクニック。「ダメな僕でも、この商品のよさはわかります」「ダメな僕だから、この商品のよさがわかったんですよ」というニュアンスで話すことで、商品の魅力を際立たせることができます。

また、坂上さんは、愛犬家、潔癖症、ギャンブル好き、非婚主義など、さまざまなキャラクターを持っていますが、これらを自慢気に話すことはありません。自分を「愛犬家過ぎるダメな男」「潔癖症過ぎるダメな男」「ギャンブル好き過ぎるダメな男」「非婚主義過ぎるダメな男」という“ダメな男”というレベルまできっちり下げているため、どんなに活躍しようが、どんなにお金を稼ごうが、あまり嫌味を感じないのです。

クライアントに「できる営業マン」と思わせたがる人をよく見かけますが、本当にできる営業マンは、むしろ真逆。実際あなたも「できる人より、ダメな部分がある人のほうが話しやすい」のではないでしょうか。

個人のわがままや理不尽は言わない

「でも、坂上さんは人を傷つけるようなことも言っている」と思うかもしれませんが、乱暴に見える発言も、その大半は意図のあるもの。坂上さんは「個人のわがままや理不尽は言わない」ことをモットーにしているほか、「筋が通っているか、考え方がブレていないか、常に自問自答している」と語るように、自分なりに言葉を選んで発言しているのです。

また、忘れてはいけないのは、間違えてしまったときに、ごまかすのではなく「ごめんなさい」とすぐに謝ることと、あいさつや時間厳守などのマナーを誰よりも守っていること。まさに「営業マンの基本」と言える姿勢を持っている稀有な芸能人なのです。

坂上さんの原動力になっているのは、「目の前にいる人や物への愛情と責任感」ではないでしょうか。愛犬だけでなく、向き合う人や番組、商品などにも、愛情と責任感を持って向き合っているからこそ、現在の活躍があるような気がするのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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