『「理工系離れ」が経済力を奪う』を書いた今野浩氏(中央大学理工学部経営システム学科教授)に聞く

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--金融工学全体が同罪ではないと。

悪さをしたのは、いわゆるクレジットデリバティブ。あれは専門家から見ても難しくて価格付けなどできない代物だ。何千ものよくわからないものを束ねた商品の価格計算はできない。それを売り出すなんてギャンブルだ。専門家はみなそれを知っていたはず。罪があるのは、ビジネススクールでちょっと金融工学を勉強したMBAのアメリカ企業トップ。アメリカ全体がヘッジファンド化して、彼らがとにかく儲けたいとやみくもにやらせた。

--では、どうすれば。

おカネの技術的研究は20世紀後半からスタートした分野であり、ここでポシャらせたら、世界にとって取り返しのつかない大損害になる。

確かにデリバティブについては悪さをするから、そこは完璧規制をかける。たとえば、製薬会社と比較するとわかりやすい。製薬会社は新薬候補が出てくると、試験に5年、10年かける。ところが金融商品は今日思いついて明日売る。その間にチェックは何も入らない。

これは、一方の製薬会社と他方の金融で、ざっと商品に対する責任感が10の4乗ぐらい違う計算になる。試験に10年かけるのと1日でやるのとでは、まあ3万分の1の日数の違いになるからだ。おカネは人命にかかわるものではないにしても、規制を強めるべきと10年も前から多くの人が言っていた。

--日本でも金融工学研究は劣勢ですか。

大学で金融工学だけをやっているところはもはやない。金融経済学、数理ファイナンスに移った。それも技術的なことを細々と教える人がおそらく百数十人。いまや金融工学悪玉論という嵐の中で立場が弱くなり始めている。このままでは、日本の金融ビジネスの発展においても大いに心配だ。

(聞き手・塚田紀史 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)

こんの・ひろし
1940年生まれ。東京大学大学院数物系研究科応用物理学専攻修士課程修了、スタンフォード大学大学院オペレーションズ・リサーチ(OR)学科博士課程修了。Ph.D.、電力中央研究所研究員、筑波大学助教授、東京工業大学教授などを経る。数理計画法と金融工学に関する著書多数。


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