科学技術と企業家の精神 新しい産業革命のために 藤原洋著 ~「理系の発想」に裏打ちされた科学技術創造立国論

科学技術と企業家の精神 新しい産業革命のために 藤原洋著 ~「理系の発想」に裏打ちされた科学技術創造立国論

評者 福井県立大学経済学部特任教授 中沢孝夫

 もともと、石油をはじめとした化石燃料の枯渇説は、技術革新を知らない俗論でしかないのだが、それにしても本書を読んでいると、将来のエネルギー事情に関して心丈夫な気分になってくる。新しい「送電・蓄電」システムの実用化を目指した研究開発が進んでいるとのことなのだ。

それは高効率の電力輸送で、なんと「一万キロメートルという地球規模での送電も夢ではない」のである。

となると、石油・天然ガスといった化石燃料の採掘現場近くに精製プラントと発電所を建設できるし、それどころか、「砂漠地帯に巨大な太陽光発電所を建設し」「エネルギー・スーパーハイウェイ」を構築することも可能だ。そうなれば、全世界に送電が可能となる。

無論、著者は安心せよ、といっているわけではない。世界の電力消費はますます大きくなっている。

たとえば「ヤフーやグーグル等の巨大なウェブ・サーバー群を設置するデータセンターの膨大な電力消費が深刻な問題になりつつ」ある。それはすでに2006年には米国全体の1.5%を占めるにいたっており、11年にはその2倍に達するという。これに対応するには、新たに10基の発電所の建設が必要とされるというのだ。

だが「社会を変えてきたのは、イデオロギーではなくテクノロジーであると考えてきた」著者は、それゆえ「懸念」や「心配」を指摘するよりも、どのようにすべきかを記述する。

本書は、巨大望遠鏡の話からはじまり、産業革命の歴史をたどり、デジタル情報革命のスタートから現在までを丁寧にあとづける。そして、「新しい産業革命」に向けての「科学技術創造立国」への道を述べている。それは社会発展の源泉は「金融力」ではなく「産業力」だという確信からだ。

世の中には、「ものづくりはいずれ中国に移転する」などと主張している向きもある。著者は先進国の「自国が働くのではなく、他国を働かせれば良い」とする発想を、きわめて傲慢であるとしているが、まったく同感である。

またビル・ゲイツなども「米国は、技術革新での優位性を失う危機」を指摘しているが、たしかに科学技術のアイデア抜きに産業の発展はないし国の発展もないだろう。

著者は研究者であり、起業家であり、そして企業家でもある。その体験・経験の厚みと学識に驚嘆しつつ、本書を通して評者は「理系の発想」というものを改めて知った。

大学院教育の在り方など、実に示唆的である。

ふじわら・ひろし
インターネット総合研究所、ナノオプトニクス・エナジー各代表取締役。1954年生まれ。京都大学理学部卒業(宇宙物理学専攻)。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本IBM、日立エンジニアリング、アスキー、米国ベル通信研究所訪問研究員を経る。

岩波書店 2205円 214ページ

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