その「しつけ」、実はれっきとした「虐待」だ 親に認められた「懲戒権」を曲解するな

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しかし、虐待の多くは、「しつけ」と称して行われていることが多いというのが現実です。「しつけ」名目の体罰を許していては、虐待はなくなりません。

今の民法の規定は、あたかも体罰を認めているかのような誤解を招くので、子どもの虐待防止に取り組む人々は、民法の懲戒権規定を削除して、体罰の絶対的な禁止を明文化すべきと考えていますし、私もそう考えています。国連の人権委員会からも、懲戒権規定の削除を勧告されています。

体罰というのは、子どもが間違いや失敗をしたら痛みを与えて教え込むというものですが、これは動物を「調教する」のと同じ発想です。こうした発想は、子どもを「人格のある一人の人間」として見ていないと言えるでしょう。

体罰が教育的効果を発揮することはない

体罰は子どもの身体のみならず、心に痛みを与え、傷を負わせるという点で、人権侵害と言えます。発達心理学などの科学的な観点からも、体罰が「しつけ」として教育的効果を発揮することはなく、むしろ健全な心身の成長発達に悪影響が大きいので、体罰によらないしつけをすべきと考えられています。

したがって、年に2、3回程度ならともかく(それも良いことではありませんが)、日常的な体罰はもはや「しつけ」とは言えず、虐待に当たると言えるでしょう。

今回のケースでも、「しつけ」と称してはいますが、子どもをたたくといった体罰が日常的に行われていたようです。これは、しつけの範囲を超えて、虐待と評価できると思います。

夫婦の間で子育てに関しての方針が合わない場合、きちんと話し合うことが大切です。それでも夫が体罰を止めようとしない場合には、児童相談所や市区町村の虐待相談窓口(子ども家庭支援センターなど)に相談してみましょう。

夫が専門家の指導を受けて、変わることができるかどうかが問われています。もし、夫が専門家の指導を受けても自分の非を認めず、変わる気配がないならば、母親として子どもを守るために、別居・離婚という選択肢も考えなければならないかもしれません。 

川村 百合(かわむら・ゆり)弁護士
一般民事事件、倒産事件、労働事件、家事事件(離婚・相続等)、刑事事件、少年事件等の様々な事件を手がけている。とりわけ、子どもの人権問題、DV(ドメスティック・バイオレンス)等女性の人権問題、高齢者・障がい者等、社会的弱者の人権問題への取り組みには、豊富な経験を有している。 事務所名:ゆり綜合法律事務所
事務所名:ゆり綜合法律事務所

 

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