人民元「基軸通貨化」を促す決済インフラ戦略 中国の強かな国際化政策の裏側にあるもの

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縮小

しかも、アジアの「香港・シンガポール・韓国・タイ・マレーシア」の5カ国をメインの対象として人民元を拡大している。つまり、決済インフラと認可制度によって、アジアで人民元の国際化・基軸通貨化が推進されることになる。その意味で今回のクロスボーダー人民元決済システムのリリースは重要なことで、邦銀が参加することによってさらにそれに拍車をかけよう。

また、通貨などの国際金融を考える時には、民間部門も大事であるが、公的部門を考えることも大事である。中国は今までに32の国の当局と人民元の「通貨スワップ協定」を結んでいる。アジアで締結している国は、ここでも韓国、香港、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイであり、またも「韓国・香港・マレーシア・タイ・シンガポール」の5カ国が中国のアジア国際金融政策の中心となっていることがわかる。

これらの国との関係でいうと、中国との貿易が大きく赤字の国が多い。つまり、通貨スワップ協定で、その貿易赤字の穴埋めに人民元を供与する。実務的にはそれらの外貨準備に人民元を入金する。それが外貨準備を保有する動機となり、人民元の保有が増加するのだ。

証券決済インフラも整備

アジアはアジア通貨危機という経済的トラウマがあり、資金ニーズ(通貨と期間)と合わせるために現地通貨建て債券で調達しようとする「アジア債券市場」の育成が、ASEAN+3を中心として進んでいる。

その時に重要な課題が「決済インフラ」であり、最終的には決済システムを統合していくことが計画され、検討が進んでいる。中国は証券分野も認可制等で計画的に勢力を拡大しており、人民元建ての証券決済が中心となる可能性が高まっている。資金と証券は決済においても両輪であり、必要不可欠である。

いずれにせよ、人民元は、高速道路である「決済インフラ」を整備し、ある程度の決済量を前提とする「認可制」をセットにすることで、国際化・基軸通貨化を強かに着々と進めているのだ。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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