人民元「基軸通貨化」を促す決済インフラ戦略 中国の強かな国際化政策の裏側にあるもの

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決済インフラの問題も、インフラである高速道路と一緒で、ポイントは走る車がどれだけあるかである。日本でも、24時間365日振込を可能にする新決済インフラ「モアタイムシステム」が膨大な開発コストを掛けて2018年にリリースされるが、前回記事でも指摘したように、深夜に振込をするのかという基本的な疑問が残る。

電子マネーや仮想通貨等の決済は、このような銀行間の主要な幹線の高速道路の決済に比べれば、バイパスのようなものではないか。最終的には中央銀行で決済されて、安心して商取引を終えることができる。

CIPSは2015年10月にリリースされ、直接参加行は中国の国内銀行11行と外銀の中国法人8行であった。それぞれの参加行はその先の間接参加行を国内約40行・海外140行とつなげた。世界に決済システムという高速道路を広げたのである。この2月に邦銀2行が参加することが、中国当局に「認可」された。

このCIPSは、もともとは中国銀行香港支店が担っていた海外の人民元の決済を、決済システムに移行したものとも考えられる。中国銀行は、日本においては昔の東京銀行のような外国為替専門銀行であった。しかし、中国銀行香港支店は、中国人民銀行から資金供給の特約があり、重要な決済インフラとなっていた。

そのほかにも中国は、決済インフラの一部として、海外の人民元の決済を代行するエージェント「人民元決済銀行」を海外に設置した。この人民元決済銀行は国有商業銀行ならではの決済関連サービスを行う。これも「認可制」となっている。この人民元決済銀行もアジア重視となっており、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、韓国、ラオス、フィリピンに認可がおりている。この認可もAIIB(Asian Infrastructure Investment Bank:アジアインフラ投資銀行)加盟国とダブり、戦略的なものを感じる。

さらに、国外にある人民元を中国国内の証券に投資することが許可された機関投資家RQFII(Renminbi Qualified Foreign Institutional Investor:人民元適格海外機関投資家)の認可も、アジアでは香港・シンガポール・韓国・マレーシア・タイに与えられている。これも人民元決済ニーズを高めることになる。

決済インフラの整備と認可制度がセットに

このように人民元は、クロスボーダー人民元決済システムという高速道路を作った。これで、国内と海外の人民元の決済(移動)インフラはできた。ここまでは普通の国でもできるが、中国が強かなのは、「認可制度」とセットになっているところである。認可を受けるには当然、ある程度の人民元の使用が見込まれている必要があり、人民元の普及を支援する状況にもなる。

人民元の決済は、貿易も市場もある程度見込まれるが、このインフラと認可制度のセットによってインフラが使われる。つまり、高速道路にある程度の車は走るような仕組みがあるのである。

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