優れた上司は、部下の「尖った部分」を活かす 人の個性を削ると、後には何も残らない

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したがって、いまがどういう局面なのか(上げ相場なのか、下げ相場なのか)を察知し、局面に応じて「任せる担当者を変えていく」のが社長(上司)の仕事といえます。

しかし、日本の企業の人材育成は、「得意なことをどんどん伸ばす」よりも「不得意なことをなくす」ことに傾いている気がします。

人材配置は「損得」で考えて「実利」を得る

60歳でライフネット生命保険を起業した著者が上手なマネジメント法を解説。リーダー論の名著が「さらにわかりやすく」「さらに具体的に」図解版で登場しました。上司はなぜ「部下の仕事を60点で満足しなければならない」? なぜ「部下の相談に乗ってはダメ」?――読むと自然と背筋が伸びる「上司の教養」が、この1冊で身につく(KADOKAWA/本体1000円+税)

たとえば、ハーバード大学のロースクールで法律を学んだ社員に向かって、「地道な苦労もしたほうがいいから、営業を一から経験してこい」「アメリカかぶれになっていないで、田舎の実情を見てこい」などと、不毛な精神論を振りかざしたりします。

グローバル企業であれば、このような対応はしません。この社員がすぐに成果を上げられるような人事をします。

「キミ、まだ年齢は若いけれど、法律を専門的に勉強してきたのだから、法務部の次長に抜擢するよ。会社のコンプライアンス体制をつくってほしい」と、実利や、損得を考えた人材配置をするはずです。

仕事を任せるときはやはり「不得意なことではなく、得意なことを任せる」ほうが実利は得られます。そして、その人の不得意なところは、「強制的にできるようにさせる」のではなくて、ファンドマネジャーの例のように、「別の人」をあてがって、補えばいいのです。

さらにいえば、このようにして部下に仕事を任せるときに気をつけたいのは、「人は100%の力で働くことはできない」ということです。

ライフネット生命保険の開業前に、日本生命時代の大先輩から、社長になるための心構えを聞かれ、僕は、「優秀な社員が集まったので、みんなに100%の力を発揮してもらって、いい会社にしたいと思います」と答えました。

すると先輩は、「100の力で働いたら、すぐ疲れてしまうだろう」と、僕をたしなめました。「人間は、普段は30か40の力で働いているのだから、50で働けば十分。だからはじめは、みんなが50くらいで働いて、少しずつ時間をかけて、50を55に、55を60にしようと考えるのが経営者だ。いきなり社員に100%の力を発揮してもらおうなんて思ってはアカン」

当時の僕は、人間と社会のリアルな関係を見切れていなかったのです。人間は元来、怠け者です。そのことを受け入れたうえで、「誰に、どんな仕事を任せたらいいか」を考えるのが、上司の仕事なのです。

最後にチームを機能させるためのポイントをまとめると、

人の「尖った部分」は「個性」。個性をそのまま生かし、
さまざまな形を組み合わせるからこそ、組織は強くなる。
攻めが得意な人は攻めを、守りが得意な人は守りを極めればいい。
上司は部下に「向いている仕事」を任せたほうが成果は望める。

ということになります。みなさんの参考になりましたら幸いです。

KADOKAWAビジネス書籍編集部
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