国宝を守らなければ「年金・医療」はもたない イギリス人アナリスト、「文化と経済」を斬る

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少子高齢化で若い世代が減っている今だからこそ、文化の伝承が行われない今までの文化財のあり方を見直して、活気にあふれ、日本古来の歴史、習慣、宗教、美意識、生活などを「体感」でき、国民が身近に感じて頻繁に訪れる、大学のような教育施設へと、文化財を変えていく必要があるのではないでしょうか。

(4)伝統技術の継承

本書で詳しく説明しますが、日本の伝統技術が欧州のそれと大きく異なるのは、「一度も途絶えていない」ということです。

欧州の場合、18世紀半ばに始まった産業革命によって、中世の伝統技術のほとんどが途絶えてしまい、最近になって文献などをもとに再現されています。しかし、日本では近代化したのがわずか百数十年前ということも幸いして、数百年前の技術が現代にまで脈々と継承されています。これはすばらしい日本の「強み」だと思います。

ただ、これまで行われてきた伝統技術の継承が、現在難しくなってきています。最大の原因は、日本人の生活スタイルが大きく変わったことです。たとえば今のマンションや新築の家では、和室がないということも珍しくありません。一般の家庭で使われなくなった伝統技術が急速に消え去ることは、欧州が証明しています。畳を使う場面が少なくなるということは、畳で用いられる伝統技術の継承も徐々に行われなくなっていくということなのです。

このように民間の需要が減れば減るほど、伝統技術を継承していくためには、文化財の役割が非常に大きくなっていきます。もはや今の日本で、伝統的な建築技術や伝統工法が日常的に使われる場所というのは、文化財修理の現場しかないからです。

しかし、現在の文化財行政では、民間の仕事で育成された職人を、そのときそのときに「貸してもらう」という前提に立って、基本的にどこかが壊れたという緊急性のあるときに大がかりな修理をするというスタンスで、定期的なメンテナンスは30年に1度程度しか行いません。

民間の仕事が減れば、伝統技術の継承のためにも、文化財の定期的なメンテナンスを加速していく必要がありますし、文化財だけで計画的に伝統技術を支える戦略が求められています。

とはいえ、これも(2)と同じく、伝統技術の継承のためとはいえ国庫は無尽蔵ではないので、補助金という税金の投入が行われる以上、やはり国民生活に対してそれなりの「効果」がもたらされなくてはいけません。

だからこそ、これまで提示した「伝統技術の継承」「国民が文化や歴史を学ぶ体感施設」、そして「観光資源化」を三位一体で進めなくてはいけないのです。

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