杭打ち問題の旭化成、新社長が背負う十字架 失った信頼の回復へ、新体制が4月にスタート

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小堀次期社長(左)は電子部品畑を中心にキャリアを重ねてきた(撮影:風間仁一郎)

指名委員会に辞任の意志を伝えたのは1月中旬。4月には新たな中期経営計画のスタートを控えているため、自身の引責辞任でデータ偽装問題に一定の区切りをつけ、新体制で新年度を迎えさせたいという思いもあったようだ。

後任社長となる小堀氏は1978年に神戸大学を卒業し、旭化成に入社。各種センサーやLSIといった電子部品の営業・マーケティング担当として奔走し、当時はまだ小さかった電子部品事業を育てた功労者の一人だ。

同事業を担う旭化成エレクトロニクスの社長を経て、2012年から旭化成本体の役員としてグループ全体の経営戦略と財務経理を担当してきた。後任に同氏を選んだ理由について、浅野社長は「小堀さんほど全事業に精通した人はいない」と説明した。

信頼回復が最大の課題

新社長となる小堀氏にとって、最大の課題は信頼の回復だ。同じ不祥事で世間を騒がせた東芝とは違って、旭化成の業績自体は好調。しかし、今回の杭打ちデータ偽装問題により、長年かけて築き上げた旭化成の信頼が揺らいだ面は否めない。収益柱の住宅事業では新規の受注が前年比で2ケタも減るなど、影響が出ている。

杭打ち工事による賠償リスクも頭の痛い問題だ。横浜のマンション以外でデータ偽装が発覚した350件については、その大半で安全確認調査が終わり、現時点で杭工事そのものの欠陥は見つかっていない。

ただ、問題となった横浜のマンションに関しては、杭が支持層に届いていない可能性が指摘されている。現在、現地で本格的な再調査が行われており、杭工事自体の欠陥が確認されれば、販売主の三井不動産レジデンシャルから建て替えなどにかかる多額の費用負担を請求されることが確実だ。

「信頼回復に近道はない。従業員たちには自分たちの現場、足下をもう一度見つめ直すよう呼び掛けたい」と小堀氏は言う。「一人一人が現場の約束事をきちんと守り、自分たちの製品、事業に愛着を持って、お客様に誠実に対応していく。その積み重ねが(旭化成の)信頼につながる」。

座右の銘は「知行合一」と「有言実行」。杭打ち工事の不祥事で失った信頼を取り戻せるか。小堀新社長をトップとする新体制が、重責を背負って動き出す。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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