世界金融市場は「崩壊の危機」に直面している 資金の安全な避難場を破壊した日銀の「罪」

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このような状況があるところへ、日銀がマイナス金利を導入し、世界の金融市場は、マイナス金利の怖さを思い出してしまった。この銀行部門のリスクをさらに意識することとなり、世界中の銀行が追い込まれる、という連想ゲームが始まり、いよいよ終わりの始まりが始まったのである。

米国の利上げ回避も、通常なら株価にプラスのはずだが、米国債金利の急落で、これは世界の金融機関のもうひとつの収入源を奪うことになり、さらに銀行不安は拡大した。

安全資産の市場がギャンブル市場に

最後に。日銀のマイナス金利はとどめを刺しただけで、本質的な問題ではない、タイミングが悪かっただけだ、という説もあり得るが、タイミングは重要だ。これまで、サプライズで、いわばタイミングだけで市場を弄んできたしっぺ返しを受けているのだ。問題は、それがしっぺ返しでは済まないことだ。株価が下落して元に戻るだけでなく、世界の銀行システムの崩壊の危機に陥れたのだ。

国内経済を考えると、マイナス金利は為替安にすることだけが短期的なプラス要因だが、黒田緩和第三弾は誤算に見舞われた。週末から米国の金融政策への不透明性が高まり、日本側で為替をコントロールするどころか影響すらも与えられなかったのだ。金融市場は米国次第、とりわけ為替はすべて米ドル次第という基本中の基本を勉強させられただけに終わった。

そして、本当の日銀の最大の罪は、世界の金融市場から安全な逃避場を消滅させたことにある。

現在の円高は資金の逃避と説明され、10年国債までもが急騰してマイナス金利になったことも、資金が安全資産へ逃避した、と説明されているが、これは180度どころか、異次元に間違っている。なぜなら、円買いや長期国債買いが起きているのは逃避ではなく、逃避というストーリーで資金が集まるので値上がりする、という短期的な投機的思惑から資金が殺到しているだけだからだ。だから、今後は、円も国債も乱高下を続けるだろう。

日銀の最大の罪は、国債という安全資産の市場、資金の逃避場の市場を破壊したことにある。これらの市場は乱高下に見まわれ、投機資金のギャンブル市場になってしまったからだ。これは3年前、異次元緩和第一弾が始まったときから起きていることであり、第三弾は最後のとどめにすぎない。異次元緩和が始まったときから、この金融市場の終わり、安全資産市場が世界から消滅するという、終わりの始まりは始まっていたのである。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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