民生電機業界は厳しい事業環境下、当面は財務基盤の強さが信用力下支えのカギに 《スタンダード&プアーズの業界展望》

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事業法人・公益事業格付部
上席アナリスト 中井 勝之


 スタンダード&プアーズは、今年1月以降、ソニー(A-/ネガティブ/A-2)とシャープ(A/ネガティブ/A-1)のアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更する一方、パイオニア(B+/ネガティブ/--)や日本ビクター(BB/ネガティブ/B)について大幅な格下げを行ってきた。2008年秋以降の世界経済の減速と急激な円高の進行を受けた事業収益の悪化に加え、各社が大規模な構造改革に取組んだ結果、2009年3月期の損失額が拡大し財務健全性が大きく悪化したことが主な要因である。2010年3月期も業績動向は不透明であり、信用力にはさらにダウンサイドリスクが高まる状況と考えている。

前期は主要各社が大幅な損失を計上。今期も業績不透明感は強い

国内の主要な民生エレクトロニクス会社(パナソニック、シャープ、ソニー、日本ビクター、パイオニア、三洋電機)は、2009年3月期に6社合計で8,000億円を超える大幅な最終損失を計上した。世界景気の悪化や円高による業績悪化に加えて、人員削減や製造拠点の見直しなど固定費削減を行った結果、リストラ損失も膨らんだ。2010年3月期では、これまでの構造改革効果が期待できるものの、主要各国の景気動向が依然不安定であることに加え、円高の影響や製品価格の低下も続くと見られることから、キャッシュフローへの下方圧力は引き続き強いとみている。またソニーやパナソニック、パイオニアなどでは今期も一段のリストラ費用の計上が予定されており、上記の主要各社合計ベースで見た場合、今期も4,000億円近い規模の最終損失が予想されている。

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主要な製品である薄型テレビに関しては、ノンブランド品や海外大手メーカーとの競争は今後一段と強まる方向とみている。新興国を中心に販売台数は引き続き拡大が見込まれるものの、スタンダード&プアーズでは、今期も前期比2~3割程度の製品価格の下落が続く可能性が高いと考えている。厳しい環境を考えれば、前下期に大きく悪化した各社の薄型テレビ事業の収益性が、早期に回復できるかは依然不透明と言わざるを得ない。収益回復には、高付加価値品に注力する従来の取組みに加えて、当面の成長領域である新興国の需要拡大にいかに対応するかが重要となろう。コスト競争力とともに市場特性にあった製品開発力も重要なポイントと考えている。

一方、カムコーダーやデジタルカメラなどその他の主要製品についても、競争環境や需要の動向を考えれば、収益性が急速に回復する見通しは低い。加えて、各社とも海外部門の売上拡大の強化を図るなか、為替が円高水準にとどまっていることは、引き続き業績面に対するネガティブ要因となっている。

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