東海道新幹線が「大雪」でも運休しない舞台裏 汚名返上へ、現場が重ねてきた努力の歴史

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JR東海が導入した新型ブラシ車(撮影:尾形文繁)

一方、ブラシを回転させて除雪するブラシ車は、レール上面どころか、レール底面の約5センチメートルまで除雪できる。ブラシの形を線路設備に合わせることで、より深い範囲、つまり枕木付近の除雪まで可能になるのだ。

ブラシ車自体も、この10年で大きく進化した。これまでのロータリーブラシ車は進行方向が1方向に限られていたため、作業効率上の問題があった。たとえば、米原から岐阜羽島に向けて除雪した後は、逆方向の除雪ができないため、回送で米原まで戻す必要があった。

この問題を解決するため、2012年に両方向へ走行可能なロータリーブラシ車を新たに開発。作業効率がグンと改善した。「1日の作業量は変わらないが、よりゆっくりと丁寧にできるようになる」(JR東海・新幹線鉄道事業本部の松嵜道洋・施設部長)。1台当たりの導入費用は2億7000万円。2016年度までに4台を導入する計画だ。

平均遅延時分は5分の1に短縮

現在、N700系の車両床下と地表にはカメラが設置されており、雪の舞い上がりや車体着雪状態を確認できるようになっている。さらに、かつては運転士が目視で確認していた天気の状況が、2013年からは光学センサーを備えた降雪情報装置によるリアルタイム監視に改められ、客観的なデータ収集が可能になった。

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着雪を除去する「雪落とし部隊」

こうした情報が名古屋駅や新大阪駅に伝えられると、ホーム下で待機している「雪落とし部隊」の出番となる。雪の付着した列車が到着すると、ホーム下から高圧洗浄機を使って迅速に着雪を除去する。

スプリンクラー、除雪車、情報機器、人力などを総動員した雪対策により、1976年度には年間635本を記録した雪による運休本数は、1994年度以降、ゼロを継続している。雪による平均遅延時分も、ピーク時(1974年度)の28.1分から5分程度まで大きく改善した。

「雪対策は永遠の課題。終着点はありません」と、松嵜部長は言う。「雪に弱い新幹線」という汚名の返上に向け、今日も現場の作業員が汗を流している。雪で新幹線が遅れてイライラしたとき、こうした鉄道マンの奮闘を思い出せば、少しは気がまぎれるかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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