「民主主義」ではなく「防衛」選んだ米国の覚悟--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 民主主義は価値ある目標であることに変わりはないが、それを獲得する手段と目的を峻別することが重要である。民主化を断固として推進することと、より穏やかに民主主義を支持することの間には違いがある。弾圧や腐敗した選挙、詭弁的言辞を避けたいがゆえに、経済支援や舞台裏での外交政策、市民社会の発展を支援する多角的な取り組み、法による支配の実現など根気のいる政策を排除すべきではない。

国内の民主主義の維持が外交政策の要点

同様に海外の民主主義を支援する外交政策は、国内において実施している方法と同じでなければならない。強制しようとすると、民主主義は歪められてしまう。自分たちの民主主義の伝統を堅持すれば、それを模範とし、ソフトパワーの魅力を作り出すことができる。こうした手法は、レーガン元大統領が“丘の上の輝く町”と呼んだものである。

多くの人々がアメリカの政治制度を批判し、それはカネで支配され、閉鎖的な制度であると主張している。しかし、オバマ大統領の誕生は、アメリカの民主主義のソフトパワーを回復するうえで非常に大きな役割を果たした。現在、アメリカの国内で議論されているリベラルな民主主義の問題として、テロの脅威にどう対処するべきかということがある。9・11テロ事件の後の極端なまでに恐怖に満ちた状況の下で、ブッシュ政権は国際法と国内法の解釈を歪めて拷問を行うようなことをやってきた。それがアメリカの民主主義を台なしにし、ソフトパワーを弱めてしまった。

幸いにも、自由な報道機関と独立した司法、多極主義を主張する議員の努力のおかげで、国民がブッシュ政権の政策を公然と議論するようになっている。オバマ大統領は、グアンタナモ基地(キューバ)の勾留施設を1年以内に閉鎖すると宣言し、勾留者の拷問を正当化するために利用された法的な文書を公開した。

極端な恐怖心が存在するとき、人々の心理の振り子は安全を求めて極端に振れるものである。

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