「仕事だけ人間」は部下の力を伸ばせない 「部下の人生にコミットする力」はあるか?

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――部下が女性だと思って、余計話しにくかったのかもしれませんね。男だったらはっきり「1年待て」と言えたのかもしれません。

たとえば娘のことはあまり聞きたくないという父親、多いでしょう。ボーイフレンドの話が出たりすると不機嫌になったりしてね。男親はそういうことにはあまり触れてはいけないという不思議な思い込みがある。

異質な人間とコミュニケーションをとるのが下手なのは、日本の男性に多い傾向です。

『上司の心得』では異質を引き受けることの重要性についても書きました。現状にブレイクスルーを起こすためには、組織にダイバーシティが必要なんです。これからの社会では、ますます多様性が求められるでしょう。異質なものとのコミュニケーションを嫌がっている場合ではありません。

「職場に家のことを持ち込むな」は日本男性特有

――職場に家のことを持ち込むなというのも、同じ根っこのような気がしますね。

同じでしょう。「職場に家のことを持ち込むな」というのは、日本の男性特有の意識です。娘からボーイフレンドの話をされるのを嫌がり、奥さんの愚痴を効くのを面倒くさがり、「俺は仕事で疲れているんだから」といって逃げようとする。職場は家庭という面倒から開放される格好の場所なんです。

以前、英国『エコノミスト』誌が世界で最も大きな影響力を持つ経営コンサルタントと評したスティーブン・コヴィーさんと、日本の著名な経営者との対談の進行役をしたことがありました。

最初のうちは日本の経営者が熱心に経営論を話し、コヴィー氏が聞き手に回っていたのですが、あるところからガラッと変わりました。彼が何を話し出したかというと「私が自分の人生でもっとも自分を評価したいと思うのは、家族を大切にし、9人の子どもと52人の孫たちを立派に育て上げたことです」と言ったのです。対談相手は黙ってしまいましたね。

日経の『私の履歴書』に出てくる人はほとんどが男性で、家のことはすべて女房に任せていたという人ばかりです。娘が何に悩んでいるかなんて、我関せず。親のつとめを放棄している。まるで江戸時代みたいじゃないですか。このような意識が女性の昇進の壁になっていると思いますよ。

コヴィー氏は大変立派な業績を遺していますが、それ以上に家族を大切にし、子どもたちともたくさん話をしてきた良き父親でした。子どもが危ない道を歩いているとき、それを助けるのは親の務めです。助けるためは、きちんと見ていなければできません。

そしてそれは上司の務めでもある。職場というところには、個人の事情をひっくるめた部下の人格があるのです。職場は、彼らの人生の半分で、残り半分の個人としての人生と密接に関わり合っている。それをできるだけ理解して、ちゃんと活かしてやることが管理職の役目です。彼らの事情もわからずに「言う通りにしろ!」では、人はついて来ないし、組織のパフォーマンスも上がりません。「俺は仕事一本だ。部下も頑張るやつしか見るつもりはない」というのはダメなんです。

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