「駅員への暴力」が増えている原因は何なのか 加害者の2割は酔っ払いではなかった!

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ところで、過去の趨勢を見てみると、2003年度の下半期と、2008年度の上半期で大きく件数が伸びている。民鉄協では「原因分析まではしていない」そうなので、勝手に推測してみたい。

現代人は様々なストレスに晒されているとはいえ、2003年や2008年に突然世の中全体でストレスを抱える人が増えたとは思えない。人は時間の経過とともに物事を忘却できる能力を備えている。カッとなることが起きても、しばらくすると頭が冷えるということもある。

ただ、不愉快なことが起きてすぐにカッとなることが起きたために、ついつい手が出たということはあるだろう。

そこで、鉄道係員への暴力行為は、電車内や駅構内で受けるストレスが影響しているのではないか、という仮説を立ててみた。

原因はスマホとキャリーケース?

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スマホは2008年以降急速に普及した(写真:Ushico/PIXTA)

まずは2003年の急増原因だが、この年は電車内での携帯電話による通話が正式に禁止された年だ。最近でこそ電車内で通話をする人はほとんど居なくなったが、それはコミュニケーションの手段がメールに置き換わったからだろう。

今でも電車内で堂々と、そして延々と通話をしているのは主に外国人というのが筆者の肌感覚だが、2003年当時は電車内での通話をめぐり、乗客同士のトラブルも頻発したし、車掌に注意されて逆ギレしているサラリーマンをよく見かけた記憶がある。

取引先からの電話に出ないと商談が壊れる、上司からの電話に出ないとパワハラを受ける、などなど、車内で通話をせざるを得ない事情を抱えていたがゆえに、逆ギレの程度もヒートアップしたのかもしれない。今に置きかえるなら、LINEの既読メールに即座に返信しないようなものだったのかもしれない。

その5年後、2008年下半期以降の急増原因として考えられるのは、スマホとキャリーケースだろう。iPhoneが日本で初めて発売されたのは2008年7月。以来スマホは急速に普及し、混んだ電車内での操作だけでなく、歩きスマホも激増した。歩きスマホでゆっくり前を歩かれてイライラを覚える人も激増しただろう。

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キャリーケースの普及もトラブル増加につながった可能性がある(写真:tomos/PIXTA)

ほぼ同時期にはキャリーケースも普及。キャリーケースは人一人分のスペースをとるだけに、存在そのものが迷惑だ。キャリーケースを持った乗客はいっそのこと2人連れだと思えば腹も立たないのかもしれない。

ことほど左様に、電車内で人を苛立たせる因子は次々と現れる。だからと言って暴力が肯定されることはない。犯罪である以上刑罰もある。一時の感情に流されて暴力を働いたために警察のお世話になり、人生が一変することもありうるのだ。
 

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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