中国が5月までの金正恩訪中を提案した理由 ミサイル発射中止を条件として提示

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このときに武代表は、金正恩訪中と2015年12月に公演する予定で突然キャンセルされたモランボン(牡丹峰)楽団の公演を提案したことがわかった。「統一ニュース」によれば、この消息筋は「1月の核実験では、実施を中国側に事前通告しなかったことについて習主席が怒っている。金第1書記にとっても、いずれは国際デビューをしなければならず、どうせデビューするなら中国ですべきだ。経済問題を考慮すれば、金第1書記は習主席に何らかの贈り物をする可能性が高い」と言う。

しかし、1月の核実験をはじめこれまでの北朝鮮の行動パターンから考えれば、中国側がどんな提案をしても、自分がやりたいことはやってしまう。中国であっても対外関係は自国の情勢においてそれほど考慮されず、そのためミサイル発射をすると決めれば必ずやるだろうという見方が支配的だ。

韓国政府関係者も「中国側がどんな提案をしても、北朝鮮はロケットを打つだろう」とミサイル発射は既定路線という見方をする。韓国の別の専門家も「金正恩訪中は別途に協議しようと北朝鮮側は言ったのではないか。そうやってボールを中国側に投げてしまい、逆に中国側が厳しい対応に迫られる」と見ている。

訪中受け入れ可能性は半々

中国在住のある北朝鮮関係者は、北朝鮮からみた対外経済関係について「北朝鮮は自立経済を目指している。国内に必要な製品の国産化はかなり進んでいる。そのため、核実験を行って中国との経済関係が悪くなると言っても、それほど影響はない」と打ち明ける。原油も中国からだけではなく、イランやロシアからも輸入しているし、現実のビジネスは中国側とも何ら問題なく行われているという。

閉鎖的な北朝鮮の姿勢を打ち破るためにも、金正恩訪中は大きな契機になるのは確実だが、中国の提案を金第1書記が受け入れる可能性は、現段階ではとても低いように思われる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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