“公的資金注入制度”のどこが問題なのか、規律なき政府の介入はモラルハザードを生む

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 政投銀による出資スキームを通じて一般企業への公的資金注入の道を開いた改正産活法。政投銀、商工中金による低利融資、コマーシャルペーパーの買い取りだけでも異例の措置であるにもかかわらず、「出資」にまで踏み込むのは、なぜなのか。

経産省は改正産活法による出資を、「金融危機に伴う一時的な要因で在庫などが積み上がった“倒産する必要のない企業”が、銀行からの融資が受けられなくなり、資金繰りに窮した場合の緊急措置」と位置づけている。

具体的に想定されているのは、複数の金融機関からなる銀行団からシンジケートローンで融資を受けている場合。シンジケートローンには財務制限条項が付され、自己資本比率の低下があった際に貸し剥がしをできる、との条項が組み込まれていることが一般的。自己資本比率の急低下を受け、一部の銀行が融資の引き揚げを主張すれば、資金繰り難に陥ってしまう。一方で資本市場がマヒしており、市場での増資も容易ではない。緊急策であれば、貸し剥がし分を緊急融資で肩代わりするだけでも足りるのだが、ひとっ飛びに資本増強を行えば、信用補完効果が高く、その後の新規借り入れも行いやすい、というわけだ。

だが出資は、企業経営者の深刻なモラルハザードにつながる。そもそも、“倒産する必要のない企業”を事業所管省庁や政投銀が特定することなどできるはずもない。政投銀による緊急融資実行後も業績悪化、銀行団の貸し剥がしが続き、民間での資本増強を行えないのだとすれば、これは、もはや金融危機に伴う一時的要因とは言い切れないだろう。民事再生法、会社更生法を活用し、粛々と法的整理を行えばいい。

それでも、あえて出資をするのであれば規律が不可欠だ。出資の入り口で、出資先企業の再生可能性を吟味する仕組みを整備する必要がある。「政投銀に損失が発生した場合、日本政策金融公庫が補填するのは5~8割。民営化された政投銀にも負担があるため、シビアな投資判断を行う」というのが経産省の言い分だが、事業所管大臣が支援を認定した案件を政投銀が拒むことは容易ではない。政府のお手盛り出資も許しかねない構造を改善するには、企業再生に知見のある識者で構成する第三者委員会が必要だ。

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