アジアの経済・ソブリン格付け見通し、各国政府・当局の対応により差が生じる可能性も 《スタンダード&プアーズの業界展望》


主席アナリスト
小川隆平

2009年の平均成長率は大幅に低下、マイナス成長国もかなりの数に

 昨年以降の世界的な金融危機と経済の急減速の影響を受け、スタンダード&プアーズが格付けを付与しているアジアの16のソブリン(国または地域)のうち、日本を除く主要11ソブリンの実質国内総生産(GDP)成長率の単純平均値は、2009年には0.56−1.06%と2007年の7.26%(実績)、2008年の4.25%(一部見通し)から大幅に鈍化すると予想される。これは11ソブリン中、半数に近い5つのソブリンがマイナス成長となる見通しで、中国、インドなどでの比較的高い成長が相殺されると予想されるためである。

 一般に、アジア地域の成長率の低下は、輸出の減速が、輸出企業の設備投資の減少、雇用削減、給与引き下げ等を通じて、内需全般に悪影響を及ぼすことが考えられる。したがって、輸出依存度の高い地域ほど世界経済の成長率低下の影響を受ける可能性が高い。アジアではシンガポール、香港、マレーシアなど、外需がGDPの2倍から3倍に達する国・地域が存在し、これらの国・地域では世界経済の混乱の影響は総じて大きいといえる。また、インドのように従来、世界経済との関連が比較的希薄と思われていた国でも、近年、IT関連をはじめとする産業や同国への投資が急ピッチで拡大してきたことから、輸出の落ち込みや投資資金の流出が続いており、経済はかなりの打撃を受けると予想される。

 こうしたなか、4兆元にのぼる景気刺激策を発表した中国にアジア経済の下支えの役割を期待する向きも多い。中国は目標としている8%の実質成長を達成できなくとも、6−7%の成長を遂げることができれば、アジア経済には幾分のプラス要因となる可能性はある。ただし、中国国内には過剰在庫、過剰設備等の問題もあり、経済政策運営の舵取りは容易ではない。また、中央と地方間での資金負担が明確でないプロジェクトもあることなどを踏まえると、実際の経済効果を予測することは困難である。他方、政府の景気刺激策を受けた銀行部門の貸し出し増加は今後、不良債権の増加につながる可能性もある。


成長率は各国の経済構造の柔軟性、資本や金融資産の水準に左右される見通し

 市場では2009年中に米国を含む世界経済の底打ちを予想する向きも多いが、スタンダード&プアーズでは、2010年にずれ込む可能性があると考える。他方、世界の金融・資本市場と経済が平静を取り戻しても、国際的な流動性は金融危機発生以前の水準には戻らない可能性が多い。2006年末には世界の金融資産総額は世界全体のGDPの約3.2倍に達していたとされるが、これはストラクチャード・ファイナンス等の金融手法によって、非常に高いレバレッジが生じた結果とも考えられることから、今後、シンセティックCDO(資産担保証券)等に匹敵するような新たな「錬金術」が開発され、普及しない限り、世界の金融資産総額の世界全体のGDPに対する比率はバブル崩壊前の水準に戻らない可能性が多い。このため、全般的にみて、リスクプレミアムの水準も、バブル最盛期の水準を上回ることが予想される。また、資金の出し手が投資対象の選別をより強化する可能性があるため、信用力の低い借り手に対する流動性供給が、以前よりタイトになる可能性がある。

 こうした状況下で、今後のアジア経済の成長力も、それぞれの国・地域の経済構造の柔軟性、自国の資本や金融資産の蓄積度合いに影響を受ける可能性が多い。また、世界経済が混乱期を脱し、正常化に向かったとしても、相対的に少ない国際的流動性の影響により、アジア地域においても一部の例外を除き、総じて成長率は、当面、バブル崩壊以前の水準を下回る可能性がある。
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