山田太一氏が語る脚本、映画、そして仕事術 「憶病だから仕事で掛け持ちはできない」

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――今回、「ラブストーリー・クリエイター・スクール」で講義をされるとのことですが。

僕もいい年ですからね。あまりそういうものには出ないほうがいいと思っていたのですが、会場の二子玉川が割と家から近かったものですから(笑)。それならいいかなと思ったのですよ。

――脚本を教えたことはあったのでしょうか。

僕が40歳くらいだったか。朝日カルチャーセンターが始まったばかりの頃に、講師のひとりとして教えたことがありました。教えると言ったって、僕も若かったし。来る人は時間に余裕がある人たちだったから、中年の女性が多くて。カルチャーセンターが始まったばかりの頃だから、何だろうと思っていらしたのかもしれませんね。

でも、それから何十年も経っていますけど、その時のグループの人たちが連絡を取り合って、1年に1回とか集まったりしているんです。1度きりではい、さよなら、とならないことってあるんだなということに感銘を受けました。

――そこではどういったことを教えられたのでしょうか。

結局、うまく教えられなかったんです。教えることの難しさを感じましたね。フィクションなんて自分で考えるものですから、簡単に教えられるものではない。だから雑談をしてたと思います。まぁ、遠慮なく「つまらない」「いい」「これは自分の世界ではないけどうまい」とか言い合って。そういうことの集積じゃないかと思うんです。だって物語を書いたことがない人がいきなり書いてもなかなかうまくいくものじゃないですから。結局、書くということは、ある程度ひとりでつくり出す苦労の時間を要するものだと思うんです。下地があれば別ですが。

「締め切りの前に自分の締め切りを作る」

――書くことに近道はないと。

人気取りではなく憶病で私は仕事で掛け持ちをしたことがないんです。最初からここの期間で引き受けたとなったら、なるべく多めに時間をとって、それ以外の仕事はしないようにしてきました。余計な心配かもしれないけど、売れ出したらどんどん書かないといけないじゃないですか。でも僕はそんなことでつぶれる義理はないと思っていて(笑)。一作品だけに時間をとれば、慌てないで済むし、ダメだった時に仕切り直すこともできる。取材の時間だってかけられる。今までなんとかそういう流儀で来られました。

――締め切りは守るタイプですか。

これもまあ自分の才能の見当をつけて、憶病に憶病に締め切りの前に自分の締め切りを作るのです。これ以上は僕の手に余ると思ったら断るようにして来ました。

僕はぜいたくが下手ですし、普通に食べて行ければいいと思っていたので。後は小説や芝居なども書いていました。テレビだけだと、仕事がなくなった時に不安になりますけれど、次は小説を書こう、芝居を書こうとスケジュールを埋めていました。気持ちの平静を保つ必要がありました。結局ライターは自分でコントロールするしかありませんから。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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