「NHKにはすべてがある。問題は組織運用と教育だ」−−日本放送協会会長 福地茂雄

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--今はセクト主義的なところがあると?

ある面ではセクト主義にならざるをえないようなことになっています。専門性が高いですから。ただ、専門性が必要とされる組織であるというなら、私はいったい何だろうと(笑)。そもそも会長(私)は今までビールを売っていて、放送のことは何も知らないわけですから。一方で、NHKに40年いてある部門については専門性があっても、ほかの部門については知らないという人もいる。だから、知っていればいいということではないだろうな、と。

これだけ世の中の変化が速いと、経験則では成り立たないですよ。経験則を無視したらいけないですけれども、経験則に乗っかってはダメ。そのとき、そのときの変化に適応していかないといけない。

--各セクションには専門性のある優秀な人がいるけれども、これまでは変化に対応して判断を下すべきマネジメントが不在だったと?

教育(の不在)でしょう。私がビール会社に入ったころはゼネラリストが評価された。ただ、キャリアを重ねると今度は専門性が求められるようになる。だけど、スペシャリストというのは融通が利かない。だから、スペシャリストだけを育てていると、世の中が変わったときについていけないんです。

一方、プロフェッショナルというのは、あることについては卓抜した技能を持つスペシャリストだけれども、変化に適応できる。世の中の変化や同僚に合わせて対応できる。正月に「プロフェッショナル 仕事の流儀」でイチローのスペシャル番組をやっていた。強打者というのは自分の好きな球を待っているかと思ったら、イチローは「ピッチャーのいちばん得意な球を打つ」と言う。びっくりした。これがプロです。今求められているのはそういう人材です。

--でも、たくさんのイチローが育つには大変な時間がかかります。

素材はものすごく豊かです。ここはヒト・モノ・カネが全部そろっている。人材は多い、NHKのブランドはすばらしい、技術もあるし、キャッシュフローもすごい。さらに、情報もそろっている。経営資源は全部ある。だから、うまい方向に向ければ絶対にうまくいく。よその組織に比べたら早くできると思います。

--全部そろっていてできないほど、これまでのマネジメント不在はひどかったということになります。

そんなおこがましいことは言えないですよ(笑)。が、いいマネジメントがあれば、いい企業風土はつくっていけるという実感はあります。

--経営資源があるのだから、やはり方向性なのでしょうね。

どういった動機づけをするかが大事です。しかし、どういう動機付けをしても、自分をやっていることに誇りを持たなかったら、惨めですよね。今は才能がありながら、少数の人たちの不祥事のせいで全員が下を向いている。まずは伏し目がちにならないように、誇りを持つ、自信を持たせるのが私の仕事です。 

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