総選挙迫るが凡戦くりかえす政治

総選挙迫るが凡戦くりかえす政治

塩田潮

 政治家の国会答弁にはしばしば本音隠しの言い回しが登場する(以下、括弧内は隠された本音)。
 「遺憾に思う」「真摯に受け止める」(仕方がない)、「前向きに努力する」「慎重に検討する」「善処する」「可及的速やかに対処する」「〇〇する用意がある」「粛々と進める」(当面、何もしない)、「記憶にない」「失念した」(身に覚えがあるが、言えない)、「真意ではない」「念頭にない」(それが真意で、念頭にある)等々。

 4月28日の衆参両院の本会議での麻生首相の答弁にも、本音隠しが随所に見られた。税制改革への取り組みを聞かれて、「着実な実施に向け、検討を進める」と述べた。おそらく「政権がずっと続くなら、そのとき改めて考える」というのが本音だろう。北方領土に関する政府代表の発言問題について、「これ以上の対応を考えていない」と逃げた。本音は「余計な発言だったが、とくに問題ない」といったところか。世襲制限問題では「十分な議論が必要」と答えた。麻生首相自身、祖父が元首相、父が衆議院議員という世襲政治家である。「議論は時間の無駄。そのうち話題にならなくなる」という気分だろう。

 総選挙直前で、本来なら燃えるような大激戦のはずなのに、政局はほとんど無風、国会は稀に見る凡戦である。民主党が大きくつまずき、代表質問に党首が登壇できないのだから、勝負にならない。ところが、麻生首相は就任以来、放言、漫言、前言訂正、漢字誤読と「口災」で超不人気を招いた反省からか、慎重答弁の連発だ。安全運転で乗り切る作戦のようだが、真意が伝わってこない。凡戦を招いているもう一つの要因である。
 次期総選挙は史上初の事実上の政権選択選挙というふれ込みだが、凡戦を繰り返す政治に有権者が愛想尽かしして、不信急増による大量棄権という最悪のパターンも十分あり得る。
 民主主義の危機ともいうべきこの事態を、与野党とも、もっと深刻に受け止めるべきである。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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