自動車業界、急ブレーキ後はしばらく徐行運転が続く《スタンダード&プアーズの業界展望》

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キャッシュフローの枯渇
 収益力の急速な低下と在庫積み上がりなどによる運転資本の増加により、実質的にすべての日本の自動車メーカーでキャッシュフローが大きく圧迫されている。2009年3月期のフリーキャッシュフローは大多数の日本の自動車メーカーで大幅な赤字になり、有利子負債の増加につながったとスタンダード&プアーズはみている。4−6月期には過剰在庫がおおむね解消され生産調整が峠を越えるとみているのに加え、2010年3月期には設備投資を大幅に絞り込むことによってフリーキャッシュフローを改善し現金サイクルを安定させることが可能と現時点ではみている。しかしながら、上位メーカーのキャッシュフロー創出力は前期に比べて著しく低い水準とどまることになろう。自動車市場の低迷が長期化すれば、キャッシュフローがさらに圧迫されるリスクが一段と高まってくるとみている。

流動性と資本
 2008年秋ごろに世界的な金融市場の混乱が拡大したことで、日本の事業会社をとりまく資金調達環境はかつてないほど厳しい状態にある。しかしながら、日本の上位自動車メーカーは十分な流動性を維持している。日本の上位自動車メーカーは全般的に多様な資金調達源へのアクセスと日本の大手金融機関との密接な関係を維持しており、今後も借り換えリスクを限定的にとどめながら十分な流動性を維持していくことが可能とスタンダード&プアーズはみている。ここ数年間好業績が続いて自己資本の蓄積が進んだのに加え、保守的な財務方針が維持されていることから、資本・負債構成もおおむね良好に維持されている。

政府による需要刺激策は一定の効果が期待できる
 ドイツで導入されたスクラップ・インセンティブが成果を上げたのに続いて、日本政府も4月から環境対応車の減税措置を始めたのに加え、車齢の高い車からの買い替えに補助金を助成する、ドイツと同様の制度を追加経済対策に盛り込んだ。スクラップ・インセンティブやスクラップ・ボーナスなどと呼ばれるこうした制度は、低迷する自動車需要を刺激するうえで有効な仕組みである。同時に、このような制度は、自動車メーカーにおける環境対応車の開発と、世界的に年々厳しくなる環境・排ガス規制の要件達成を間接的に後押しするとみられ、究極的には各メーカーの競争力強化につながる可能性もある。

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