企業の変革支援がIBMの成長軸だ 橋本孝之・日本IBM社長に聞く

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--日本IBMの営業は、ノルマ達成のために努力する。しかし、思うように売れない。そのため循環取引などの不正に手を染める、という構造的な問題もあるように見える。

昔みたいにハードやソフトをモノとして売っているときには不正はやれたかもしれないが、もう今は難しい。押し込みなんてできない。

できる営業マンは、単発で成績がいいわけではない。定常的にずっと伸びていく。伸びる最大のポイントは、いかにしてお客様と多くのプロジェクトを起こしてくるか。プロジェクトは、コンサルから始まり、アプリケーション開発、導入、運用という流れになる。長いプロジェクトでは、2年、3年のものもある。そういうビジネスモデルに変わってきているなかで、不正でノルマを達成することはできない。

重要なのはプロセス。そこを間違えちゃうとダメです。どうやってお客様に対して価値提供していくか。そのために社内でどのようなチーム編成をしてソリューションを作り上げていくか、こういうプロセスを評価することが重要で、売り上げや利益は、あくまで結果。「クライアント・ファースト」を表彰する狙いは、まさにそこにある。教育が重要だと思っている。

--04年12月期決算での不正以降、米本社出身の外国人役員が増えており、次の社長は米本社出身者、との見方もありました。

本社は「日本法人のトップは日本人でなければダメ」と早くから決めていたと思う。CEOのサミュエル・パルミサーノは日本に駐在していましたから、日本のマーケットのことを熟知している。そこには少しも迷いはなかったと思いますよ。

--パソコン事業を売却したため、一般消費者にとっては目に触れる機会が少ないブランドになった。これは人材採用などでマイナスではないですか。再び個人向けのビジネスに乗り出す必要があるのでは。

その予定はないですね。中で使われている半導体は今でも提供しているが、最終製品をIBMブランドでやることはない。宣伝費だと思えば、個人向け商品があってもいいのかもしれない。しかし、ビジネスとして見れば、売り上げ、利益ともに満足いく数字は上げられなかったのだから、仕方がないでしょう。

確かに、「モノ」としてはIBMのブランドは見えにくくなった。しかし、IBMが支援して、企業がこう変わりましたという事例をどんどんPRしていきたいと思うんです。「パワード・バイ・IBM」による企業変革をどんどんアピールして、明確なブランドイメージを確立したいですね。

(山田俊浩 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

はしもと・たかゆき
1954年生まれ。78年、名大工学部卒、日本IBM入社。希望に反し地元愛知の営業職に配属となったが、10年連続で営業ノルマ達成。米本社勤務後、92年から東京本社勤務。2009年1月社長就任。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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