日新化成工業の「動物園経営」がユニークだ 社長は蜜蜂、社員はコンドルやポニーに

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この連載の開始時に、一休さんのようなトンチ力で磨きをかけている企業を取り上げたい、と書きました。その一休さんが、ナント、日新化成工業の新3カ年計画に登場したのでうれしくなりました。

でもこの一休さん、頭だけの二分の一休さんです。そしてここでも、片岡社長一流の語呂合わせがありました。

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片岡社長流の語呂合わせがすばらしい「二分の一休」

「二分の一休」を英語にします。「HALF」と「Q」に分解できます。「HALF」はHear(聞く)、Ask(訊く)、Listen(聴く)の3つの「きく」とFast(速い)の頭文字をつないだものです。一休のQもQuickly(迅速)を意味します。つまり全部合わせると、お客様の話を聞いて(Hear)、訊いて(Ask)さらに聴く(Listen)ことで課題解決の糸口をつかみ、提案書・見積書を従来の2倍速(Fast)で提出するといった迅速な(Qickly)対応を心がける、という会社の意思を表現しているのです。

目標管理の観点から言えば、自らを目指す動物にした個人目標の次に、それを統括する組織目標が必要です。でも上に掲げた組織目標をスローガンにすると、普通は「顧客満足のために迅速な行動を!」といった平凡なものになって、社員の印象に残りません。それを「二分の一休(H.A.L.F Quickly)」とつねに口ずさめるようにしておけば、「そうだ! お客様の話を謙虚に聴こう」、「見積書をいつもの1/2の期間で回答するぞ!」という行動に落とし込める、というわけです。

先生から経営者になったのはなぜ?

最後に、どうしても片岡社長に聞きたいことがありました。

「3代目とはいえ、一度は高校の生物の先生になったのに、どうして経営者になったんですか?」

少し意地悪な質問だったのですが、片岡社長は嫌な顔もせず、こう答えてくれました。

「学校の先生は、お金をもらって生徒たちを教育します。一方会社の社長は、お金を払って従業員やスタッフを教育します。お金の流れは違っても、人を教育する立場であることは同じです。しかし学校の先生は、本当に共鳴してくれる生徒としか一生付き合える関係に発展しませんが、社長は違います。お互いの生活や人生がかかっているという緊張感の中で、本当の生きた教育ができるような気がしています」

確か、松下幸之助さんも「名経営者は名教育者」と仰っていました。社員を成長させることが、優れた経営者共通の喜びなのかもしれません。

もちろん生物を教えていたことが、経営にユニークな視点を与えている点も見逃せません。

「『種の起源』で有名なダーウィンの言葉に『最も強いものが生き残れるわけでもなく、最も賢いものが生き残れるわけでもなく、変化するものだけが生き残れる』というのがあります。同じように環境変化に迅速に対応することが、わが社が生き残るための絶対条件なんです」

そう言う片岡社長の顔は、まさに高校の生物の先生そのものでした。

竹原 信夫 日本一明るい経済新聞 編集長

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たけはら のぶお / Nobuo Takehara

有限会社産業情報化新聞社代表取締役(日本一明るい経済新聞編集長)。1971年3月、関西大学社会学部マスコミ学科卒、同年4月にフジサンケイグループの日本工業新聞社に入社。その後、大阪で中小企業担当、浜松支局記者などを経て、大阪で繊維、鉄鋼、化学、財界、金融などを担当。1990年4月大阪経済部次長(デスク)、1997年2月から2000年10月末まで大阪経済部長。2001年1月に独立、産業情報化新聞社代表に。年間約500人の中小企業経営者に取材、月刊紙・日本一明るい経済新聞を発行している。
 

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