ミツバチが謎の減少で農家悲鳴、ぬぐえぬハチの需給悪化懸念

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 玉川大学ミツバチ科学研究センターの中村純教授は「(例年に比べて繁殖期の)気温が高かったことに加え、ネオニコチノイド系農薬やダニによる被害などが考えられる」と言う。ネオニコチノイド系農薬は、有機リン系農薬に代わって使用が広がっている。ネオニコチノイド系は神経系に効くため、ほぼ即死の有機リン系と違ってミツバチは生き延びて巣へ戻る。これで巣内が農薬に汚染され、死滅した蜂群もあったとみられる。だが、この農薬は数年前から使用されており、直近で起きている急減の“犯人”と断定することはできない。天敵であるダニの存在も同じ。現在、ミツバチ用のダニの駆除剤は1種類しかないが、すでに海外では10年ほど前に抵抗性を持つダニの発生が報告されている。国内でもダニが耐性を獲得したという指摘もあるが、それだけを急減の理由として直結させることは難しい。

急務の原因特定 迫り来る繁殖期

ミツバチ不足は農家だけでなく、養蜂家にとっても痛手だ。近年、安価な中国産ハチミツが拡大し、国産価格は下落の一途。貴重な収入源としてミツバチのレンタル・販売を拡大する養蜂家が増えていた。特に土地開発などで蜜源が減った地域では、交配用に特化する養蜂家も増えた。こうした動きは高齢化と大規模化が進む農家にも好都合だったが、足元の需給バランスは大きく崩れた。

ミツバチの数を増やすべく、農水省では輸入女王蜂の確保に、アルゼンチンと交渉中だ。全国の養蜂協会には、余ったハチを交配用に提供するよう呼びかけ、農家にはミツバチの代替品としてクロマルハナバチの利用も提案している。

こうした国の対応に対し、玉川大学の中村教授は「アルゼンチンには凶暴なアフリカ系の遺伝子が拡散しており、日本にこれが広がりかねない」と懸念する。そして「なぜ国は減少した国内ミツバチを増やすほうに意識を向けないのか」と問題視する。代替品として注目されるクロマルハナバチも「安定交配のためハウス使用に限定して勧めている。イチゴの場合、小型ハウスでは過剰訪花(花粉の付けすぎ)で奇形果が生じるおそれがあり、交配時間の調整が必要」(販売業者のアリスタライフサイエンス)。ミツバチの完全代替とはいかない。

数の確保に努める一方、早期の原因特定が欠かせない。はたしてミツバチ不足は解消するのか。需給悪化懸念が払拭できないまま、ミツバチ繁殖期の夏が目前に迫る。

(前田佳子 =週刊東洋経済)

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