低賃金で長時間労働「保育士が足りない」 現場に戻れない潜在資格者は70万人も

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男性保育士も活躍し始めているなかで、「男の寿退社」という現象が起こっているのも賃金の問題が大きい。保育士の男性比率は2.8%(10年、国勢調査)で、伸び悩んでいる。

株式会社がチェーン展開する都内の保育園で働くマサシさん(27)は入社当時、「若くても実力次第で管理職に抜擢する」と説明され、モチベーションが上がった。3年目にはクラスリーダーになり、5年目の今、もうすぐ主任になれそうだ。30代前半で園長も夢ではない。

ただ、それは実力があるからではなく、次々に保育園が新規開設され、単に人手不足だからだと気づき始めた。新卒の給与は手取り13万円。今は2万円上がったが、実家から通っていてもカツカツだ。1日3~4時間は残業しているが、残業代は出ない。園長になっても、月給は20万円程度だと知って、すっかりやる気をなくした。

「これから結婚して家族を作りたいのに、月20万円程度の給与ではやっていけない。異業種に転職するなら今のうちです」

と、求人情報をチェックする。

体調不良でも出勤を強要される

不動産会社が経営する首都圏の保育園でも、「とにかくカネ、カネで子どもは二の次だった」とベテラン保育士のフユミさんは憤る。もともとは自社のマンションに住む子育て世帯向けの園児十数人の認可外保育園だったが、ビジネスチャンスに本格参入し、120人規模の認可保育園になった。保育に必要な教材が買えなくなり、人員は保育補助者を中心に3割も減らされた。フユミさんは言う。

「お散歩に行くのも危険がいっぱい。0歳なら2対1、1歳なら3対1くらいでないと安全は守れない」

認可保育園では保育士の配置基準があり、0歳児は子ども3人に対して保育士1人、1~2歳児は6対1、3歳児は20対1、4~5歳児は30対1となっている。だが、実際にはそれでは不十分で、保育園や自治体が独自に保育士や保育補助者の配置を増やすなど工夫をしている。

この園では、人員削減によって配置基準ギリギリになり、保育士の体調が悪くても「はってでも出ろ」と言われた。当然、良い保育などできるはずがなく、フユミさんはじめ保育士が次々と辞めていった。

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