ニコン製カメラを支えるタイ工場、現地社員も共有する品質重視のベクトル

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ニコン製カメラを支えるタイ工場、現地社員も共有する品質重視のベクトル

タイの古都アユタヤ市の中心部から車で10分ほど離れた郊外に、タイを代表する輸出基地の一つ、ロジャナ工業団地がある。ホンダ、日立、パナソニックなど70社以上の日系企業が工場を構えるこの工業団地の一角に、ニコンのカメラ事業を担う製造子会社、ニコンタイランドがある。

同工場ではカメラ事業の主力製品である一眼レフ、交換レンズについては、9割方の製品を製造している。フラッグシップであるプロ向け一眼レフ「D3」などは、今でも仙台ニコンが製造しているものの、もはやそれは例外。いわばアユタヤこそがニコンの一眼レフの主力工場だ。

工場内で最も大きな面積を占めるのが、カメラの組み立て工程。この作業所に入るには、全身をすっぽりと覆う作業着(スモック)に着替え、帽子とマスクを装着する必要がある。広大な製造ラインには、女性の工員たちが一列に並び、プラスチック製の外枠に、基幹部品である画像センサーユニット、プリント基板などを順に組み付けていく。2交代制で1日約23時間稼働。作業は完全な流れ作業だがベルトコンベアはなく、受け渡しは手渡しだ。

作業時間中、場内には定期的に軽快なポップ音楽が流れ出す。1分弱の曲が計3曲。この音楽が流れている間は、作業の手を休め、いっせいに清掃作業を行う。青やピンクのふきんを手に持ち、蛍光灯のかさ、作業台、そして床と、曲ごとにふく箇所を変えながら掃除を行い、その後、休憩するルールになっている。こうした掃除は1シフトにつき5回行われる。2交代制のため、1日の掃除は10回にもなる。

ニコンタイランドの従業員数は2月末時点で1万人強。そのうち、正社員は8000人強。残りが派遣社員で、ここが雇用の調整弁の役割を果たしている。繁忙期には派遣社員は7000人いたが、昨年秋以降の販売減退を受け、現在は2000人に絞り込んでいる。正社員が直接の指示を出せない、日本の請負会社社員に相当する作業者は皆無だ。

大卒エリートが続々 高い社員の定着率

8000人強いるタイ人正社員は現場の単純作業だけを担っているわけではない。管理を行っているのもタイ人だ。リーダー格の正社員が1人当たり10~20人程度の作業者を統括しており、製造現場で不具合、不手際などがあればすぐに対応のために駆けつける。「日本は請負会社を使っているから、指揮命令系統が複雑になることが避けられない。その点、タイのほうがよっぽどやりやすいのではないか」。ニコンタイランドの金澤健一社長はそう自信を見せる。

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