「貨物新幹線」は本当に津軽海峡を走るのか 青函トンネル貨物輸送のあるべき姿とは?

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当のJR貨物も「模型を作ったわけではないし、コンピュータを使ったシミュレーションをしているわけでもない」と素っ気ない。車両・クレーンの開発や、すれ違い時の風圧をどうするのかといった点は「すべてこれから勉強する」(同)。コンテナ新幹線は本当に「勉強を始めた」というレベルにすぎないようだ。

18日のWGでは、TOTに関する過去3年間の検討状況が報告された。懸案だった重量や重心の問題については、シミュレーションや試験台車を使った台上試験で走行安全性や安定性を確認されたものの、さらに厳しい条件での検証を行うことが必要だという。

では、青函トンネルを走る貨物列車としてTOTが本命視されているかというと、それも疑わしい。

2013年3月以降、時間帯区分案に関する検討会は9回、すれ違い対応に関する検討会は7回にわたって行われた。一方で、TOTの検討会はわずか4回。昨年1年間だと、9月に1度開催されたきりだ。ほかの案に比べると、検討の頻度はあまりにも少ない。

共用問題の難しさが浮き彫りに

「貨物新幹線は誰もやりたくないんじゃないの?」。あるJR関係者はこう言い放つ。

「安全性が未知数」というのが最大の理由だが、コスト面の問題も無視できない。青函トンネルを走る貨物列車をすべてTOTに切り替えるには、20編成程度が必要という。積み替え基地の建設費用も含めると「3000億円を上回る事業費になる」と、JR貨物は2012年9月のWGで報告している。

北海道新幹線の札幌延伸に伴う事業費が約1兆6700億円。これにさらに費用を積み増すとなれば、TOTの導入は現実的でないように映る。

年明け早々、話題を振りまいた貨物新幹線。だが、かえって青函共用問題の難しさを浮き彫りにする結果となってしまったようだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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