「年越し派遣村」後の生活保護、入りやすく出やすい合理的な制度設計を

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 東京都多摩地区に住む単身者のAさん(57)は、月に生活扶助で8万1610円、家賃(ワンルームマンション)4万5000円の合計12万6610円の扶助を受けている。11月から3月は暖房代3090円が加算される。東京都では上下水道料金が減額され、NHK受信料も申請すれば免除される。

生活保護受給者は国民健康保険から外されているが、医療扶助により医療費は全額無料である。介護保険には加入しているが、保険料は国・自治体が負担する。こうした医療扶助が生活保護世帯の大きな助けになっている。国と自治体合計2兆6779億円(08年度)の生活保護費のちょうど半分が医療扶助である。

厚生労働省の資料によると、東京都など1級地-1での高齢者夫婦世帯の生活扶助基準は12万1940円。この基準はほとんどの同年齢の国民年金受給者の収入より高いだろう。さらに住居費、医療費などの扶助が加わる。このことから、「年金より生活保護の基準が高いということは、制度設計自体がおかしいことを意味する」(原田泰・大和総研チーフエコノミスト)という指摘もある。

一方で、東京都特別区でケースワーカーとして働いた経験がある企業経営者は、「生活保護は憲法の理念に由来する社会福祉制度の根幹である。現在、日本には障害者福祉など多くの社会福祉があるが、いずれも関係団体の運動の結果、政治と行政が動いて実現したもの」としたうえで、「生活保護を最後のセーフティネットと位置づけ、なるべく使わせない政策よりも、生活保護を活用する政策のほうが、現存する多くの社会福祉を整理、統合することが可能になる。逆説的だが、行財政改革にもつながる」と指摘する。

現在の生活保護は「入りにくく、出にくい」といわれる。これを多くの人が人生の困難な時期に使える「入りやすく、出やすい」制度にすれば国民の安心感も高まる。生活保護にかかわる非合理性やモラルハザードを排除したうえで、もっと使いやすい制度にする知恵を出すべきだ。

(内田通夫 =週刊東洋経済)

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