「年越し派遣村」後の生活保護、入りやすく出やすい合理的な制度設計を

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 派遣村からの申請者のうち、その後申請を取り下げた2人を除く230人の年齢階層は、60歳代以上38人、50歳代62人、40歳代68人、30歳代52人、20歳代10人という構成で、最年長は74歳、最年少が26歳だった。

当時の千代田区の生活保護受給者数は490人程度、担当するケースワーカーはわずか5人である。そこに230人もの新たな受給者が出現した。現在では「年越し派遣村」からの受給者は7人を除いて、すでに他の自治体に転居しているという。

生活保護の窓口事務を担当するのは自治体の福祉事務所である。生活保護費の負担は国が75%、自治体が25%(これを都道府県と市町村が折半)となっている。 

厚生労働省は、「過去に被保護人員にキャップ(上限)をはめる政策はとったことがない」というが、財政難とケースワーカーの不足に悩む多くの自治体は、これまで生活保護を申請させない「水際作戦」を行ってきた。東京都特別区のあるOBによると、「相談に来ても申請用紙を渡さない。プライドをずたずたにして追い返すのが腕のよい生活保護担当者とされてきた」という。さらに「硫黄島作戦」も行われたという。上陸(支給)を許しても3カ月程度で「もう自立できるでしょう」と支給廃止に持ち込む撃退作戦だ。こうした対応により、「働く意思、能力、機会がある」と見なされる50歳以下の申請・受給は、病気や障害のある人々を除くと困難だった。

「ファクスでの生活保護申請は法律上できることになっている。申請地に住所がないことも申請を阻害することにならない。生活困窮者に速やかに支給することも法律にかなっている」と厚生労働省の担当者は語る。

「年越し派遣村」に参画したNPO法人もやいの稲葉剛理事長は、「本来、生活保護法では一定の条件を満たせば、生活保護が支給される。そのことを世の中に広報した効果があった」という。ただ、「一人で申請に行くのと、NPOや弁護士がついていくのとでは、担当者の態度がまったく違う」とも指摘する。

年金より高い生活保護基準

生活保護の支給基準は「最低生活の保障」と定義されているが、その基準以下で働くワーキングプアと呼ばれる人々は、日本に800万人とも1000万人ともいわれる。

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