クレハの”負けん気”経営、視界不良の化学業界で異彩放つ

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“裏研究”が生んだ医薬品 3年後に海外発売も

熱分解プロセスの再利用からは、慢性腎不全用剤「クレメジン」も誕生した。77年、医療分野進出となった抗悪性腫瘍剤「クレスチン」は、同社の研究者が、胃ガン末期の老人がサルノコシカケの熱水抽出物を服用して奇跡的に回復したという話を耳にしたことが開発の始まり。勤務時間外の“裏研究”が、76年の薬価申請、翌年発売につながった。

現在、医療分野の柱であるクレメジンは、炭素繊維と同じ石油系ピッチが原料。それを球状化、不融化、賦活(作用を活発化)、酸化還元させることで、1回服用分の2グラムでテニスコート10面分の孔が開いた高純度の球状活性炭を形成する。この孔が尿毒症毒素を吸着、便とともに排泄することで尿毒症症状の改善や透析導入の遅延を可能にする。保存期慢性腎不全への積極的な治療に適する世界初の薬剤であり、「薬剤として今はクレメジンしか存在しない」(厚生労働省健康局疾病対策課)というまさにオンリーワン製品だ。

2012年には欧米、インドでの発売を目指し、薬価ベースでの売上高急伸をもくろんでいる。「(国の)医療費軽減にも寄与し、当面は増収増益を維持できる孝行息子」(大槻成章・医薬品企画・開発部長)。炭素技術ベースでは、他にも、リチウムイオン2次電池用負極材が今や収益源の一つに育っている。

依然汎用品頼みの日本の化学業界が視界不良にある中、「世界トップシェア製品を多く有し、独自技術で高付加価値製品を投入できる企業のみが成長を持続できる」と話すのは、クレディ・スイス証券の澤砥正美ディレクター。同氏は特にクレハの新型ポリエステル系樹脂PGAに注目する。ハイバリア性と加水分解性に優れたPGAは、「PETボトルの20%以上減量化やシェルライフ(石油使用期限)の延長に寄与することから潜在市場規模は大きい」という。原料供給先の米デュポン社が10年頭に商業生産を開始する。

“負け”を逆手に、独自に技術を磨くことで道を開いてきたクレハ。身動きの取れない同業大手にヒントを与える番が回ってきたようだ。

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(二階堂遼馬 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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