法人実効税率を引き下げると何が起こるのか 恩恵を受ける企業と打撃を受ける企業がある

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簡単に性質面から見れば、人件費をあまりかけず、法人所得(利益)が大きい企業は、付加価値割をはじめとする外形標準課税の増税額が小さく、法人実効税率の引き下げによる減税額が大きいから、差し引きして減税となる。逆に、人件費が多く法人所得が少ない企業は、差し引きして増税になる。

では、その境目はどこにあるか。焦点は、企業の利益や費用の構造である。ここで、話を簡単にするため、今年の利益(法人所得)から差し引ける税務上累積した過去の赤字(繰越欠損金)はないとする。また、税務上特別に恩恵を受ける減税(租税特別措置)はないとする。

ポイントは付加価値に占める人件費の割合

筆者の推計によると、次のような計算式で、今回の法人税改革による増減税の境目がわかる。この値がプラスとなる企業は減税、マイナスとなる企業は増税となる。事業税の損金算入や雇用安定控除は考慮されている。

4.36-0.36×人件費比率-0.89×支払利子・賃貸料比率-0.22×資本金比率
注:人件費比率=報酬給与額÷単年度損益、支払利子・賃貸料比率=(純支払利子+純支払賃貸料) ÷単年度損益、資本金比率=資本金等の額÷単年度損益

 

読者の皆さんがお勤めの企業ではいかがだろうか。比率に実際の数字を入れれば、判別できる。

では、どんな企業が減税となるか。総務省「平成25年度 道府県税の課税状況等に関する調」によると、付加価値割の4つの構成要素は、平均して、報酬給与額が67.7%、純支払利子と純支払賃貸料は9.4%、単年度損益が22.9%であり、資本金比率は2.24となっている。これに基づけば、人件費比率は2.96、支払利子・賃貸料比率は0.41なので、上記の式の値は2.43となり、減税の恩恵が上回る。

しかし、実際に外形標準課税が適用される企業の8割は、報酬給与額の構成比は70%を超えている。さらに、報酬給与額の構成比が85%を超える企業は、全体の65%に達する。

それを踏まえれば、資本金比率は同じとして、報酬給与額が85%、純支払利子と純支払賃貸料は10%、単年度損益が5%という企業の場合、上記の式の値はマイナス4.09となり、今回の法人税改革で増税となる。

今回の法人税改革の増減税の境目を表すこの式から見れば、筆者の分析では、付加価値に占める人件費の比率が80%を超えると、法人税改革によって増税となる。どうやら、一部の企業が大きく減税になる半面、多くの企業が少しずつ増税となって、税収中立となるというのが、今回の法人税改革の効果のようである。

ただし、ここまでの話は資本金が1億円超の企業の話であって、1億円以下の企業は、増減税の影響はほとんどないといえる。とはいえ、今後気になる動向は、今回の法人減税で、これまでの費用構造だと増税になってしまう企業が、税負担もにらみながらどのように経営を変えるか、である。

人件費を増やすとこれまで以上に付加価値割で税負担が増えることになるだけに、どのように費用をかけて利益を上げるか、また生み出した付加価値をどう分配するか、企業の戦略が問われる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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