ピンチ脱出法は箱根「山の神」が教えてくれる 大活躍後の絶不調…そのときに何をすべきか

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走ることができないなら、ほかに何ができるのか。神野はチーム練習後に「山上り補強」のために筋力を強化し、就寝前には30分以上かけて「ストレッチ」を行い、身体をケアした。走ることはできなくても、自分ができるトレーニングを“我慢強く”続けてきた。今回は山頂付近の強い向かい風がランナーを阻み、体重44kgの軽量ボディには厳しい展開だったが、1年間の“成長”を力強い走りで証明した。

目標に向かって突き進む課程で、壁にぶち当たることがある。そんなとき、どうするのか。できない言い訳をして、あきらめるのではなく、「自分ができることを確実にこなしていく」ことが大切なのだと、神野が教えてくれた気がする。

マラソンでも「我慢強さ」を発揮できるか

本コラムの筆者である酒井政人の著書『箱根駅伝監督 人とチームを育てる、勝利のマネジメント術』。
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大学を卒業してからも、神野には「山の神」の称号が付きまとうことになる。箱根駅伝でヒーローになってしまったゆえの宿命だ。

「周囲から『山の神』と言われても、自分さえ見失わなければ強くなっていけると思っています。注目されることをプラスにしつつ、やることはやる。僕はセンス型ではありません。人よりも努力して強くなることが特性だと思うので、そこを忘れずにやっていきたいです」

大学卒業後はコニカミノルタに入社する神野は、「1年目は駅伝で、2年目からマラソン」というプランを描いている。最大のターゲットは、2020年東京オリンピックの「メダル」獲得だ。

「今後はマラソンが大きな目標です。社会人2年目に本気でマラソン練習をして、自信を持ってスタートラインに立ちたい。一発目から記録を狙う気持ちでいます。過去に『山の神』と呼ばれた方は、大学卒業後の数年間は、マラソンであまりいい成績を残していないイメージがあります。重圧もあると思うんですけど、僕がマラソンで結果を出せば、『箱根から世界へ』という流れが証明されると思う。競技人生を長くやるつもりはないので、才能を全部出し切って、東京オリンピックでメダルを獲得して引退したい」

「山の神」と呼ばれた男は、次は“世界の頂”を目指すことになる。世界のマラソンが2時間2~3分台の超高速時代に突入していることを考えると、その道のりは、長く険しいものになるだろう。

現状では、日本勢が世界大会でメダルを獲得することは極めて難しい。しかし、どこかに“チャンス”があるのではと筆者は感じている。自分たちができることを確実にこなすことができれば、世界との距離も縮められるのではと。神野大地の「我慢強さ」がマラソンでも発揮されることを期待したいと思う。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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