イラン制裁解除で微妙になるサウジの立場 地域における唯一の大国ではなくなった

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オックスフォード大学のファルハン・ジャハンプール氏は、サウジはイラン及び他のすべての湾岸諸国、さらにエジプトやトルコといったスンニ派の主要国とのあいだで、地域的な安全保障構造に合意する必要があると主張する。

「これらの諸国は協力し合うべきだ。敵対的な現状が続けば、敗者となるのは彼らだ。中東地域全体、さらにはそれ以上の範囲で数十年にわたる戦争が起きることになるだろう」と同氏は語る。

新たなジレンマ

イスラム教内のスンニ派とシーア派の対立は何世紀も前に遡る。近代以降においては、スンニ正統派のワッハーブ主義を奉じるサウジと、シーア派の宗教国家イランとのあいだの戦略的対立という形を取ることが多い。

2003年、米国主導の介入によってイラクにおいて少数派だったスンニ派による支配が覆され、イランの影響下でシーア派政権が樹立されたことで、宗派間の対立が再燃した。

レバノン出身のアナリスト・研究者であるアリ・アル・アミン氏によれば、サウジ政府は、イスラム国など同じスンニ派の対立勢力や、ワッハーブ主義的なシーア派に対する偏見を植え付けられた国内の反抗的な若者からの脅威の方をリアルに感じているように見えるという。

「イランとの戦いは国内での立場を強め、意志を強固にする」とアル・アミン氏は指摘。「体制を守り、すべてのスンニ派をサウジ政府のもとに結集することが目的だ」と語る。

もっとも、イランにも弱みがないわけではない。自国経済が世界市場とのつながりを取り戻し、投資によって新たな権力集団が生まれたときに、どこまで自由化を進めるべきかというジレンマに同国は直面している。

レバノン、イラク、シリアといった国々でイランが影響力の拡大に成功したのは、これら諸国が戦争や侵略によって無理やり開放され、分裂が当たり前になった状態での話だ。イランは、民兵組織など不安定な抜け道を使い、国家制度を迂回して利権を拡大してきた。

イラン政府が何よりも必要としているのは、中東地域で正当かつ建設的な地域的大国として受け入れられることだ。

「イランの役割は常に、社会における対立と分裂に立脚しており、政府機関を通じたものではない」とアル・アミン氏は言う。「イランのプロジェクトは危機なしには存続できず、国家との関係を通じた安定というオプションは持っていない。シリアにおけるイランの影響力はすべて国家の枠外であるし、イラクやレバノンでもそれは同じだ」

イランが地域的大国としてアラブ諸国に認めてもらうためには、妥協する必要がある。その一つは、イラク、レバノン、シリアの状況に関して、これまでよりも控えめな役割に甘んじることだ。

「イランは地域的な大国にはなったが、その立場を承認されるためには、自らの役割を限定しなければならない。シリア及びレバノンでのプレゼンスを維持することはできない」とレバノン出身のベテラン評論家Sarkis Naoum氏はロイターに語る。

アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙「ザ・ナショナル」の論説委員であるファイサル・アル・ヤファイ氏は、イラン政府は中東地域のさまざまな武装グループに対する支援を見直さなければならないと主張する。「(イランが)国際社会の一員になりたいと心から願うのであれば、国際社会のルールに従わなければならない」と同氏は言う。

中東をめぐる争いにおいてイランが勝者であると宣言するのは時期尚早と、ゲルゲス氏は指摘。とはいえ、「イラン人は確かに巧妙さと賢明さ、交渉能力、駆け引きの力を示している。自らが置かれた環境のなかで主要なプレイヤーとしての立場を確立し、(世界)経済における主要なプレイヤーになる能力を持っている」と付け加えた。

(Samia Nakhoul記者)

(翻訳:エァクレーレン)

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