スター・ウォーズは「不完全」だから成功した 作中で語らず、キャッチボールを楽しませる

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しかしながら、そこで同時に「この裏には何かありそうだ」ということもわかる。登場人物が思わせぶりに過去の話をしていたり、あるいは登場していない人物を当たり前のように共有してたりすると、誰でも「ああ、この人たちは古くからのつきあいで、仲間にそういう人がいて、その人はこの人たちにとってとても大切な存在なのだな」ということは気づくのである。そして、その登場していない人物について、もっと知りたい、見てみたいと思うようになるのだ。

そういうふうに、『スター・ウォーズ』という映画は、かつてないほど「多くの説明を省くことに成功している作品」ということができるだろう。そこで多くを語らないで済んでいる。説明しなくて済んでいる。それが、結果的に物語としての価値を大きく高めているのだ。

そこで、見る人に「想像することの楽しさ」を与えていることに成功している。それが、『スター・ウォーズ』という作品の面白さをさらに高める結果となっているのだ。

そもそも、この『フォースの覚醒』は、それまでのシリーズを見てきたぼくにとっても、あまりにもわからないことが多い。出自の不明な登場人物が多数登場し、そこで展開されるエピソードも何を指し示しているのか解読できない。それでも、ところどころ解読できるところがあるから、それはよくできたクロスワードパズルのように、虫食いで欠けているところを埋めてみたい欲望に駆られる。

感想を語り合って、虫食いの部分を埋めていく

だから、『スター・ウォーズ』は一人で見るには最も適していない映画と言えるかもしれない。これは、多くの人と共有し、それについて話し合うことで、面白さが二倍三倍にふくらむのだ。

そのため、この映画を見た人は、親しい人にもこれを見るよう勧めたくなるだろう。そして、見た後にその感想を語り合いたくなる。

ぼくが「多くの人が見た方がいい」といった理由もそこにある。ぼく自身も、この映画をより多くの人に見てもらって、そこでさまざまな意見を聞きたい。そこで、欠けている虫食いの部分を、一緒に語り合いながら埋めていきたいのである。

もうひとつ、ぼくがこの映画を見て強く感じたのは、制作者が『スター・ウォーズ』ファンとの「キャッチボール」を楽しんでいるということだ。

次ページファンの要望をゆうに超えてきた
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