したたかイー・アクセス、新市場を開拓した通信ベンチャーのこれから

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ワイマックスがライバル 先行メリット生かせるか

イー・モバイルの足元の業績は、ネットワーク投資や顧客獲得費用がかさみ大赤字が続いている。が、10年3月期には、EBITDA(税引前当期純利益+支払利息+減価償却費)の黒字化が見込まれており、単年度黒字化、累損解消がその先の目標となる。

前出の日興シティグループ証券の山科氏は「リファイナンス、ワイマックス、MVNO」の三つを課題、リスク要因として挙げる。

まずリファイナンス(借入金の組み替え)。08年末時点で現預金などは944億円ある(イー・アクセスは685億円)。だが、経済環境や競争激化をにらみ、今後本格化する転換社債償還などをスムーズに実行できるかどうかに留意が必要だ。

2番目のワイマックスは、KDDI系のUQコミュニケーションズが今年開始した高速無線通信サービス。下り最大速度は40メガビット/秒と、イー・モバイルの7・2メガビット/秒を上回り、エリア拡張が進めば怖いライバルになる。「試験サービスが始まったが、まだ言われているほどのスピードは出ていない。データ通信市場全体が大きくなるし、お互いにあったほうがいい」と千本会長は言うが、先行メリットをどれだけ生かせるか、勝負どころだ。

3番目のMVNOとは、通信事業者の回線を借りてサービスを行う事業者のこと。NTTドコモやイー・モバイルなどのネットワークを借りてデータ通信サービスに参入する企業が増えており、影響を受けるサービスが誕生する可能性がある。

このほかにも、イー・モバイルの契約者数が増えるにつれ、ユーザーが多い千代田区や中央区などでは、日中のスピードが遅くなるという指摘がある。これについては、携帯各社が講じているように、大量に使う一部ユーザーへの規制をかけることでだいぶ解消できるようだ。

従来からの課題であるエリア拡大も、全国で展開を進めているほか3月末、東京の地下鉄ではこれまでの3駅から37駅に拡大。09年度内に東名阪の地下鉄は100%エリア化する計画だ。直販と量販店だけだった販路も、ソフトバンクとの提携でソフトバンクショップの活用が見込めるようになっている。

今後もアッカ買収や100円PCで見せた粘り腰で、イー・アクセスは巨漢がぶつかり合う通信・携帯業界でその存在感を発揮するはずだ。

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(撮影:梅谷秀司、尾形文繁 =週刊東洋経済)

高橋 志津子 東洋経済 記者

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たかはし しづこ / Shizuko Takahashi

上智大学法学部国際関係法学科卒。東洋経済新報社に入社後は、会社四季報、週刊東洋経済、ムック、東洋経済オンラインなどさまざまな媒体で編集・執筆を手掛ける

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