日本のエリート教育を牛耳るたった2つの塾 「学歴」はもう古い!?「塾歴社会」化する日本

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決して偶然ではない。中学受験塾としてひとり勝ち状態にあるサピックスと、東大合格請負塾として知られる鉄緑会の間には、まるで懸け橋が渡されているかのようであることを、拙著『ルポ塾歴社会』(幻冬舎)では取り上げた。「サピックスから鉄緑会へ」。首都圏の学力最上位層にとってはもはや常識であるが、世間一般にはあまり知られていない「王道」が存在する。

東大理Ⅲ(医学部)の6割以上が鉄緑会出身

鉄緑会は、「秀才を集め、鍛え、確実に東大・京大に合格させる塾」ともいえる

鉄緑会の東京本校は東大および難関大学医学部を主なターゲットとしている。大阪校はさらに京大もターゲットにしている。大阪校には灘、神戸女学院、洛南の生徒が多い。

東京本校の高3の生徒数は例年600名程度。同じく大阪校の生徒数は約250名。東大合格者総数は2013年の321名、2014年の334名からさらに増え、2015年は375名となっている。京大への合格者は65名、国公立大学医学部への合格者は431名になる。

『ルポ塾歴社会』(おおたとしまさ著、幻冬舎より1月29日刊、税別800円) 出身者の体験談や元講師の証言を元に、学歴社会ならぬ「塾歴社会」がもたらす、その光と闇を詳らかにする。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

東京と大阪合わせて約850名ほどいる生徒のうち、浪人生も合わせれば、775名が東大もしくは京大もしくは国公立大医学部に合格している計算だ。さらに私大の最難関である慶應義塾大学医学部にも87名の合格者を出している。

つまり鉄緑会は、日本屈指の進学校に通う秀才を集め、さらに鍛え、確実に最難関大学に合格させる塾なのだ。

もともと地頭のいい生徒たちに有名進学校の環境が与えられるだけで「鬼に金棒」である。さらに鉄緑会に通えば「鬼に金棒にヘルメット」といった具合。盤石の大学受験となる。

特に注目に値するのは、東大理Ⅲ(医学部)の定員に占める鉄緑会出身者の占有率。日本における最難関、受験競争のヒエラルキーの最上位のなんと6割以上が、鉄緑会出身者で占められているのだ。

「学歴」よりも「塾歴」

東大理Ⅲに多くの合格者を出す学校といえば、灘、開成、筑駒、桜蔭あたりが有名。それぞれ個別に見ていくと、たとえば2015年に開成から理Ⅲに合格した14名中13名が鉄緑会出身だ。同様に、灘では15名中13名が、筑駒では9名中8名が、桜蔭でも9名中8名が鉄緑会なのである。駒東からも理Ⅲに3名の合格者が出ているが、実は全員が鉄緑会出身である。

毎年春になると、週刊誌各誌がこぞって東大合格者ランキングの特集を組み、やれ「開成が1番だ」とか「灘と筑駒はどちらが上か」などということが話題になる。

卒業生数と東大合格者数の割合から東大合格率によるランキングを作ってみたり、各大学の偏差値と合格者数をかけ合わせて学校ごとの「大学合格力」なる指標で並べてみたりして、「どの学校がいちばん東大に近いのか」「いい大学に行ける学校はどこか」をあの手この手で比べようとする。それによって翌年の中学受験における各学校の倍率が如実に変わる。しかしそれも虚しいことに思えてくる。

「学歴」よりも「塾歴」。この国では塾が受験エリートを育てているのだ。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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