金融危機後どうなる? 膨らむ一方の各国財政--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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 金融逼迫で中小企業は在庫を維持し、取引を行うのに必要な最低限の資金さえ調達するのが難しくなるなど、09年の世界経済は絶壁の淵に立っている。世界の経済成長は第2次世界大戦後初めてマイナスになる可能性がある。

09年は多くの国の生産は4~5%落ち込み、一部の国は10%以上減と恐慌状態に陥る可能性がある。さらに悪いことに金融システムが回復しなければ、経済的な低迷は米国や英国、アイルランド、スペインなどの“グラウンドゼロ”(震源地)の国で数年にわたって続くだろう。しかもオバマ政権が米国の福祉と所得再配分を欧州レベルにまで持っていこうとしているため、米国の長期的な成長の見通しは暗い。

欧州型の低成長の国でも、金利が低いときは、国債残高がGDPの60%に達していても十分に対応することができた。しかし、国債残高がGDPの80~90%まで上昇し、現在の低金利は明らかに一時的な現象であることを考えると、多くの国で債務問題がやがて深刻な問題となってくるだろう。銀行救済のために巨額の債務を積み上げた国は、中期的な成長見通しは厳しく、債務返済や成長持続の問題に直面するだろう。

たとえば国債残高がすでにGDPの100%に達しているイタリアは、国際的な金利低下のおかげで今まで何とか対応することができた。しかし、債務が累積し、金利が上昇すれば、投資家は当然のことながら国債の償還時のリスクについて注意を払わざるをえなくなるだろう。アイルランドや英国、米国などは厳しい財政緊縮を始めているが、状況が落ち着いてきたときに今よりも事態が改善されているとはいえないかもしれない。

為替相場ももう一つの不確定要素である。アジアの中央銀行は通貨のドルリンクに対して用心深くなっている。しかし米国が国債と通貨の発行を続ければ、ユーロの対ドル相場は今後2~3年は上昇し続けることになるだろう。

債務が累積し、リセッションが長引くなら、多くの国で金融逼迫かインフレの高進、金融機関の倒産のいずれか、あるいはその三つを組み合わせた事態が間違いなく起こるだろう。残念なことだが、2000年代の大不況の結末はあまりよい事態になるとは思えない。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年、IMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。 

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