【産業天気図・石油・石炭製品】原油価格高騰で製品利幅縮小、雨模様に変わるリスクも

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縮小

石油業界は「曇り」空に覆わている。原油価格の上昇が急ピッチで、ガソリンなど石油製品への価格転嫁が追いつかないためだ。高騰が一服し落ち着きを取り戻さなければ、2008年度の経常利益は在庫評価益を除く実質ベースで減益を余儀なくされる可能性もある。
 3月期決算の大手4社のうち、新日本石油<5001>、新日鉱ホールディングス<5016>、コスモ石油<5007>の3社が原油の在庫評価に総平均法を採用。油価の上昇時には期初の安値在庫を原価に含むため、利益がかさ上げ(在庫評価益が拡大)される。
 最大手の新日本石油の今08年3月期経常利益は前期比約49%増の2780億円程度に達する見通しで、同社の07年10月時点の予想(2600億円)から増額が濃厚だ。これは上記の理由で在庫評価益が07年10月の計画公表時から一気に730億円も膨らむとみられるためだ。評価益を除いた真水ベースでは同約39%減の1200億円と、実質大幅減益を見込む。  
 “下振れ”の主因は石油製品事業の収益環境悪化だ。指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物が1バレル100ドルを超え、その後も上昇を続けるなど、油価高騰の勢いはとどまるところを知らず、卸売価格を引き上げても原料調達コスト高を賄い切れない状況。同事業の実質経常損益は280億円の赤字になりそうだ。
 原油高が収益を圧迫する構図は、同じく業界大手の出光興産<5019>の業績推移からはっきりと読み取れる。同社は在庫評価に「後入れ先出し法」を採用しているため評価益が発生しない。つまり、見掛け上の利益に“実力”がストレートに反映されるというわけだ。同社は2月に今08年3月期経常利益見通しを従来予想の820億円から540億円へと大幅に下方修正。石油製品の採算悪化に加え、パラキシレンなど石油化学製品も原料ナフサ(粗製ガソリン)高で利幅が縮小している。
 こうした状況を受けて、各社は原油高が収益増に直結する「上流」の資源開発事業強化や軽油を中心とした石油製品輸出拡大などに注力中。だが、油ガス田の開発ラッシュを背景に掘削装置の「リグ」の価格がハネ上がるなど、探鉱コストが重荷になり始めた。世界景気の減速懸念の台頭で輸出増のシナリオも修正を迫られる公算がある。
 来09年3月期は遅れていた製品価格への転嫁が進み、これに伴って実質ベースの利益は改善に向かいそう。むろん、あくまでも油価安定が大前提だ。高騰に歯止めがかからなければ、やがて雨模様へと変わるだろう。
【松崎 泰弘記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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