日帰り、深夜チェックイン…新たなプランが続々、高級旅館も“禁じ手”に挑戦《特集・日本人の旅》

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ブランド力を上げろ! 四万温泉は総力戦

そのバスは、東京駅八重洲口に毎朝現れる。「四万(しま)温泉号」。平日にはスーツ姿のビジネスマンが行き交う中で、やおらバスに乗り込むのは、ここから140キロメートル先の群馬県・四万温泉を目指す旅行客だ。

同温泉は東京からのアクセスは悪くないが、同じ県内の草津や伊香保など強力なライバル温泉地に比べると存在はかすみがち。そこで、地域を挙げての総力戦で知名度向上を図っているのだ。

04年から始めた直行バスパックもその一つ。各旅館とも、これに併せて1泊2食付きの格安プランを提供。利用者はニーズや予算に合わせて好きな宿さえ選べば、あとはバスに乗っているだけでいい。

温泉地全体の質の向上に向けて、旅館同士の勉強会も実施した。各旅館の主人や社長、女将などが一緒になって互いの旅館の夕食を試食する会も開いた。旅館業界では、同じ地域内でもほかの旅館の事情はまったく知らない、というのは珍しい話ではない。四万温泉も「視察でほかの温泉地の旅館を訪ねてはいたが、自分の旅館の隣でどんな料理を出しているかは全然知らなかった」(元四万温泉協会事務局長で群馬県観光協会・観光部長の宮崎信雄氏)。各旅館とも「隣の旅館料理が食べられるのか」と驚いたという。

しかし板前にとって、地域の関係者に自分の料理とほかの旅館の料理を比べられるのは屈辱的。反発する板前から脅されることもあった。それでも宮崎氏は「自分の旅館だけよければいいというのでは生き残れない」と、旅館同士の連携の重要さを力説して回った。

顧客が十人十色なら、旅館も十人十色で対応する。そんな柔軟な時代が訪れている一方で、増殖し続けるあらゆる宿泊プランに顧客が混乱しかねない、という危惧も出始めている。中には、「ただカネを回してハイシーズンまで営業を続けるためだけに、閑散期に採算度外視で赤字覚悟のプランを出す」(ある旅館関係者)ケースも出てきているという。

六日町温泉の龍言も「日本酒飲み比べ」や「食事の日が選べる連泊プラン」など工夫を凝らしたプランをさまざまに提供しているが、支配人の金綱氏は、最近ではもう少しプランの数を絞り込まないといけないと考えている。「新しいことには積極的に挑戦しなくてはいけないが、結局、繁昌が長続きするのは、そういう仕組みよりも接客で顧客満足度の高い宿。マーケティング以前の部分をもっと強化しないといけないのかもしれない」。

書き入れ時のゴールデンウイークが間近に迫る中、旅館の試行錯誤は今日も続く。

(週刊東洋経済)

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