全国規模の観光キャンペーンの舞台裏、JRと地元がタッグを組んで仕掛ける《特集・日本人の旅》

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新潟は「食」がテーマ 準備は着々と進む

その新潟に、DC開催決定の通知が届いたのは、07年3月のこと。09年は04年の震災から5年、国民体育大会の開催も決まっていたので、県はこの1年を「大観光交流年」と定め、1月1日には観光振興条例も施行されることになっていた。

そしてもう一つ、新潟にはこの時期に観光を盛り上げなければならない理由があった。2014年問題--、北陸新幹線の開通だ。これまで東京から長岡や越後湯沢で乗り換え、北陸に向かっていた客は、新線開通によって新潟を通らずに、長野経由で北陸に流れてしまう。動脈が細らないよう、今のうちに新潟の魅力を発信する必要があったのだ。

DCのテーマは「食」とした。実は、新潟県でDCが開催されるのはこれで7回目。だが、「過去6回はいずれも一過性の宣伝キャンペーンに終わり、“観光”が地域に根付いたとは言えなかった」(JR東日本新潟支社)。新潟県観光協会の桑原氏は、キャンペーンをきっかけにリピーターを増やし、新潟を盛り上げたいとするなら、何よりもテーマが重要だと考えた。

たとえば、01年10~12月のDCでのキャッチフレーズは「うるおいの新潟」。その内容は、駅を降りて街道を歩くことが大きなテーマだったが、それで新潟の魅力を余すことなく発信できたかと言えば疑問が残る。今回のキャッチフレーズは「うまさ ぎっしり 新潟」。コシヒカリ、日本酒、新鮮な魚など新潟の豊かな食と、それを支える文化や歴史を発信するのだという。「新潟の水はミネラル分の少ない軟水で、灘などに比べると日本酒造りには適していない。そのハンデを乗り越えたのは職人の技術で……」。新潟の日本酒について語り始めた桑原氏の話は延々と続くが、こうしたストーリーを新潟ではこれまで観光に生かし切れていなかったのだと言う。

食がテーマとなると、多岐にわたる関係者の協力が必要になる。通常、DC開催決定を受けて地域で組織される推進委員会は、自治体の観光関連部門を中心に、JR支社、各地観光協会、旅行会社、旅館やホテルなどが中心となるが、今回はJAなどの農林関係、飲食関係もメンバーに加わった。

こうして委員会は、07年8月に立ち上げを予定していた。が、その矢先に、新潟県を思いがけない出来事が襲う。7月16日、中越沖地震だ。地震などの天災が観光に与える最も大きなダメージは風評被害。実際この年は、新潟県を訪れる観光客数は前年比5%以上落ち込んだ。だが、もうブレーキはかけられない。7~8月の風評被害緊急対策期間を経た後、10月末に改めて委員会をキックオフ、本番1年前の08年10月の「プレイベント」に何とかこぎ着けた。

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