欧州の「命運」はこの1年の動向で決まる 英国のEU残留の成否が栄枯盛衰を占うカギ

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この困難な課題を遂行するためにEUは、各国が同時かつ効果的にさまざまな局面で協力し合って最善を尽くさねばならない。英国がEU離脱をちらつかせている現在、そうした姿勢はこの上なく困難になるだろう。キャメロン英首相が欧州首脳と2月までに合意に達する可能性は高まっているように見えるが、同首相が2017年実施を公約したその後の国民投票で英国の有権者が合意を支持する可能性はおそらく、良くて五分五分であろう。

もちろん、国民投票とは本質的に予測不能なものだ。12月3日にデンマークで、司法内務分野でのEUとの連携拡大に関する国民投票が行われた。反対を予想したものはほとんどいなかった。そして、53%の反対票という激しい拒絶を予測したものはさらに少なかったであろう。

明らかに、難民の急増が結果に影響を及ぼした。同様に、これから英国の国民投票までに起こる新たな危機的状況はどんなものであれ、投票に近い時期であればあるほど、結果に影響しうる。

英国民投票の結果が10年後を左右

英国民投票の結果がEU残留反対となれば、欧州の基本秩序に対し最悪の事態が予想される。地政学的なEUの影響力は大きく損なわれ、他の加盟国内での反EU勢力の攻勢が強まるだろう。半世紀以上にわたって拡大してきたEUは、突然縮小し始めるだろう。

ひとつ確かなのは、今後1、2年の間にEUの姿が大きく変わるだろうということだ。英国の脱退に刺激され、崩壊の可能性に気もそぞろで、直面する他のあらゆる問題に揺れ動くばらばらの連合となるかもしれない。あるいは、英国が離脱せず、難民、国境、亡命といった問題に着実に対処し、TTIPとデジタル単一市場の確立に向かう強い連合になるかもしれない。

こうした意味で、来たる年が欧州にとって良いものとなるか否かが、今後10年を占う上で非常に重要だと言えよう。欧州と、米国を始めとする関係各国にとって。

週刊東洋経済1月16日号
 

カール・ビルト スウェーデン元首相

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1991~94年の首相在任時にスウェーデンのEU加盟交渉を行った。

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