なぜ潜水艦では、カレーが好まれるのか? 知られざる潜水艦乗りの生活に迫る<前編>

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それは、科員食堂の「長いす」です。下の写真で、乗組員が座っているいすに、丸い孔が開いているのが見えるでしょうか。ここにジャガイモやカボチャなどが格納されています。中は仕切りがついていて、種類ごとに分けることができます。乗組員が座っている茶色い部分が蓋になっていて、これを持ち上げて、取り出したり、格納したりします。

食料品の保存でもうひとつ苦労してきたのが「パンの保存」です。潜水艦の朝食はパンが一般的です。ただ、パンの長期保存は大変でした。しばらくすると、カビが生えてくるからです。乗組員の間には、「カビの部分を切り落としていたら、だんだん小さくなり、最後には切手のようなパンを食べた」という伝説も残っています。

そこで、このパンを「何とか長期間もたせよう」と工夫が重ねられ、アルコールガスを封入した厚手のナイロン袋にパンを入れ、冷蔵保存するという方法が考え出されました。アルコール臭はトーストすれば飛んでしまうので、食べるうえではまったく問題ありません。これによりパンの鮮度を、長期間、維持できるようになったのです。

「長期間」といえば、現在ではスーパーの牛乳売り場でよく目にするロングライフの牛乳――これも潜水艦では、かなり早い時期から導入していました。また、ある食品メーカーは、ロングライフの豆腐を開発し、潜水艦部隊での利用を提案してこられました(そのときは採用になりませんでしたが)。このロングライフの豆腐は、最近、やはりスーパーで目にするようになりましたが、今、潜水艦部隊で採用しているかどうかは定かではありません。

ここまで、潜水艦乗りの食料といった日常生活について取り上げました。後編でも引き続き、寝床など知られざる一面について取り上げたいと思います。

山内 敏秀 太平洋技術監理有限責任事業組合理事首席アナリスト

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1948年、兵庫県生まれ。1970年、防衛大学校(第14期)卒業(基礎工学1専攻)。海上自衛隊入隊。1982年、海上自衛隊幹部学校指揮幕僚課程学生。1988年、潜水艦「せとしお」艦長。1996年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修了。2000年、防衛大学校国防論教育室教授。2004年海上自衛隊退官。現在は、太平洋技術監理有限責任事業組合理事(安全保障担当)、首席アナリスト。主な著書は『軍事学入門』(かや書房、共著)、『潜航』(かや書房)、『中国の海上権力』(創土社、編著)

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